偽りの執事

太陽の下、キラキラと輝く金色の髪と瞳が大好きだ。
今も昔も。。


カガリと俺はこの屋敷で一緒に育った。

幼いころ今より輪をかけてお転婆だったカガリはすぐ無茶なことをしようとして、それを止めるのは俺の役目だった。
そうすると大きな金色の瞳で恨めし気ににらんできたけれど、これでもだいぶカガリのわがままは聞いてきてあげたつもりだ。
だって、カガリの喜ぶ顔が見たかったから。

俺は物心がつくとすぐにアスハ家とザラ家の関係を理解した。
当然自分が将来この家の当主になるであろうカガリの執事になるということも。

逃げることのできない生まれながらの役割。

それを初めて知ったとき俺は悲観するどころか、逆にその定めに感謝した。

この危なっかしいお姫様をずっと守っていけることが嬉しかったのだ。

俺はカガリの騎士なのだと。



でも、カガリはいずれ結婚する。
そうしたら、俺以外の誰かがカガリを守ることになる。

月日が経ってその現実を理解したとき、俺は足元が崩れるような感覚に陥った。

どんなに大切に守ってきても、必ずいつか手放さなくてはならない。
そのとき俺は果たして正気でいられるだろうか。

いられるはずがない。

今でもこんなに愛おしくて仕方がないのに。

いつか必ずくるその時を想像するとぞくっと寒気がして身体が震えた。



そうして俺はカガリから離れていった。




そうするしかなかったんだ。
これ以上カガリに惹かれてしまったら、俺は俺でいられなくなってしまうから。

カガリは俺の変化に戸惑ってすぐに問い詰めてきた。
「俺はもともと人付き合いが得意ではないのです」とすげなく言うと悲しそうな顔をして走っていってしまった。
遠ざかっていくカガリを俺を奥歯を噛み締めて俯いて見ないようにした。
でないとすぐに追いかけて「違うんだ」と抱きしめてしまいそうだったから。

カガリはそれきり俺に寄ってこなくなって、俺たちの間には溝ができた。
その溝は月日が経つにつれてどんどん深くなり、16歳になって正式に俺がカガリの執事になったときにはもう修復不可能だった。

俺とカガリは主人と執事ではあるけれど心の繋がりは全くなかった。




それは、俺が望んだ状態だった。


そうすればカガリへの想いを絶ち切ることができるんだと思ったから。
それなのに、カガリへの想いは成長しても消えることはなく、むしろ・・・・増すばかりで。

二人の関係は冷え切っているのに熱い想いばかりが溢れ出る。

その熱はいつしか制御できないまでに俺を支配していた。

毎朝無防備に眠るカガリにそのままのしかかって自分のものにしてしまおうという衝動を何度抑え込んだか分からない。
無意識に唇を近づけていたことも何度もあって、そのたびに慌ててカガリから離れ、そんな日は殊更カガリに他人行儀に接した。

そうしないと自分のなかのバランスが保てなかった。

でも最近では、それももう限界で。


カガリに正式な見合いの話がきたのはそんなときだった。
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