偽りの執事

目の前の黒がアスランの制服のブレザーだと認識できてやっと、カガリは自分がアスランに抱きしめられていることが分かった。

「嬉しいか・・・だって・・?」

何が起きたのか分からず、呆然としているカガリの耳のすぐ傍でアスランの声が鳴った。
絞り出したような、くぐもった声だった。

「アスラ・・」
アスランの醸し出す雰囲気に怯えてカガリは震えだすがアスランは腕にさらに力をこめた。

「俺がどんな気持ちで・・君に対して当たり障りのないように接してきたか・・知りもしないで」

腕のなかから見上げるアスランの顔は苦しそうに歪んでいた。
それはカガリが久しぶりに見る、アスランの素の表情だった。

「もし君の前で俺が想ってること顔に出したら、執事として傍にいられなくなる」

「アスラン・・」


アスランも私と同じ気持ちだった・・・?

今まで自分たちはすれ違っていただけなのだ。
ならば互いの想いを曝け出したこれからは。

状況に頭が追い付かなかったカガリだが、やっとアスランの言わんとすることが分かって
身体が喜びで満ちていく。

ふいにアスランの腕が緩んでカガリを解放した。

「アスラン・・?」

嬉しさで叫びだしたいカガリとは反対にアスランは悲しそうな微笑みを浮かべていてカガリの胸が騒ぎ出す。

「もう、カガリの傍にはいられないよ」

「何でだよ・・!だって・・お前、今」

予想外の言葉に戸惑うカガリの目線から逃げるようにアスランは目を伏せた。

「俺は執事で、君は俺の主人なんだぞ。」

「そんなの関係あるか!アスランはアスランで、私は私だ!!」

「そうだ・・君はカガリ・ユラ・アスハでアスハ財閥の一人娘だ。そんな君と執事の家系である俺が一緒になれるはずがない。それは君が一番分かっているだろう」

「っ・・」

アスランは辛そうに顔をゆがめ言葉を詰まらせたカガリを寂しそうに翡翠の瞳で写し取った。

「ただの執事として傍にいることができれば、それだけでいいって思ってた。だけど、君の口から君の想いを聞いてしまった今、それももう無理だ」

アスランが苦しそうに顔をゆがめた。

「自分が抑えられなくなって、君をさらってしまうかもしれないから」
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