偽りの執事

アスランから離れることを決意したあの日も、こんな風にどんよりとした天気だった・・・

「カガリ様、リボンが曲がっております」

ダイニングの窓からぼんやりと空を眺めていたカガリのリボンをアスランが手早く結びなおす。
アスランの端正な顔がすぐ傍にあって、カガリは思わず視線を逸らした。
それでもアスランの息吹を近くに感じて心臓の鼓動が早くなる。

(駄目だ。アスランに聞こえちゃう)

そう思ってカガリは身体を固くした。


カガリがアスランから離れようと思った12歳のあの日を境に二人の距離は一気に遠くなった。
もともとアスランはカガリに必要以上に接してこなくなっていたから、カガリがアスランに近づかなければそれは当然のことだった。
アスランは私に振り回されるのは嫌なんだと、これ以上嫌われてくなかったらそうするしかないと思ってもカガリは苦しくて辛くて胸が張り裂けそうなほど痛かった。
誰もいない自室で何度も彼の名を呼んで泣いた。

そうして自分の想いを自覚したのだ。

でも、それを彼に告げることはできず、今日まで封印していた。

そして、きっとこれからも。

リボンを結びなおし軽くカガリの制服を整えてアスランが遠ざかるとカガリは気づかれないように小さく息をついた。

アスランが睫が触れ合えそうな距離にいる間ずっと息をとめていたのだ。

彼が執事としてカガリに触れてくるのはもう何年も日常茶飯事のことだけれどカガリは平静にそれを受け入れることができたためしがなかった。
そのたびにアスランと自分との気持ちの温度差に泣きたくなる。

でも、そんな日々もあと少しだ。

アスランはカガリの心臓の状態など気にも留めず、玄関まで行ったところで淡々と今日の放課後の予定を確認する。

「カガリ様、今日のことですが学校が終わったらお車を回しますので、そのままホテルに・・」


「分かってるよ」




今日、カガリはお見合いをするのだ。
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