偽りの執事

「カガリ、髪飾りが曲がってる。それにちゃんと夜会用のドレスは持ったのか?」

迎えの車が待つ玄関先に慌ただしく出てきたカガリの髪飾りを直しながらアスランは聞いた。

「いちいち言わなくてもちゃんと赤いやつ持ってきてるぞ!」

「あれはこの前のキラとラクスの結婚式で着ただろう。会場に行く前にブティックに寄って新しいやつを買おう」

こともなげにアスランはそう言うと助手席のドアを開けて、カガリにシートベルトをかけてやる。

「なんでだよ!別に同じのでもいいじゃないか!」

「駄目だ。それにあれは少し露出が行き過ぎている」

そう言ってアスランは運転席に座ると車のエンジンをかけた。
その動作の一連の流れが洗練されていて、カガリは文句を言う口をとめてつい見入ってしまう。
ただ車の運転するでけで、大したことではないのに。
それなのに、酷く美しいと思ってしまうのは
こんな未来を想像することは許されないと思っていた幼いころがあるからか。

「久しぶりにお会いする教授もカガリに会えるの楽しみにしてるって言ってた」

「そっか・・ちゃんと挨拶しないとな」

車は経済界で最も権威あるメンデル学術賞授与式の会場に向かっていた。
アスランは二年前にこの賞を受賞しており、今回は歴代の受賞者として授与式とその後の夜会に招待されていた。
夫婦同伴で。

「でも、今日も大量の記者がいるのかな」

カガリが浮かない顔でつぶやく。
経済界の若き天才と称される程の頭脳に俳優顔負けの容姿を持つアスランと、アスハ財閥の一人娘であり金色の髪と瞳の明るい容姿と人柄でファンの多いカガリのカップルは常に世間の注目の的であり、結婚してからもそれは変わることがない。

「まあ、そうだろうな。でも俺はカガリが俺のものだって世界中に見せつけることができるから別にいいけど」

「おっ・・お前!よくそういう恥ずかしいこと・・んっ・・」

タイミングよく赤信号になったところで、アスランは赤くなって文句をいうカガリの唇をふさいだ。

「バカっ・・!外ではやめろって」

「スモークガラスだから平気だよ」

「そういう問題じゃ・・うう・・っん」

最初わずかに抵抗したもののカガリはすぐに大人しくなってアスランを受け入れた。
アスランは薄目を開けてカガリを見た。
小刻みに震える睫が愛おしい。

(夢ではないんだ)

そう実感して、幸せを噛み締める。
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