「大きくなったな、アスラン君」

通り過ぎる景色を背景にウズミがアスランを見つめて優しく目を細めた。
ここは黒塗りのウズミ専用車の中だ。
校門のところでアスランを待っていたウズミは多くを語らずそのまま彼を車に乗せた。


「君の活躍は聞いておる。数々の権威ある賞を総なめして百年に一人の経済界の逸材と言われてるそうじゃないか。ついこの間はあのメンデル学術賞を若干２６歳で受賞という快挙を果たしたと聞いて驚いておる。昔から君は優秀だったが、まさかここまでとはな」

「いえ・・そんな・・」

ウズミの真意が読めずアスランは曖昧に返事をした。
一体なんのためにウズミがここに来たのか考えを巡らしても答えはでなかった。

「久しぶりに君に会えて嬉しいよ」

「私もです。オーブを出てから一度もご挨拶に行けず申し訳ありませんでした」

「気にしなくていい。こうやってニュースで君の活躍を見ることができるしな」

「いいえ。ドクターを卒業したら父にも一度ウズミ様にご挨拶をと言われておりますし
その時はまた改めて。ところで、この車はどちらに・・」


「本当に君は大きくなった」

アスランの質問を遮り、ウズミはゆっくりと畳み掛けるように先ほどの言葉を繰り返した。

「実は、君に見合いをしてもらいたくてな」


「見合・・い？」

ウズミが発した言葉にアスランは一瞬思考を停止させた。

見合い・・・？
自分が・・・？

「儂と君の間柄だ。話のひとつくらい持ってきてもよいだろう。この車も相手の女性ももとに向かっている」

「そんな・・こんな急に・・」

「なに、別に話を了承するしないは当然君の自由だ。とりあえず会って話してくれるだけでいい。」

強制的に結婚されられるわけではないと分かって一応はほっと安堵する。
そもそもウズミは人に無理やり結婚を押し付けるような横暴な人ではないと分かっていたがあまりの話の展開に頭がついていかず冷静な思考ができていなかった。

「それとも決めた人がいるのかね？」

「それは・・・」

少し俯いて答えに詰まるアスランにウズミはふっと表情をゆるめた。

「君の見合い相手はいるみたいでな」

「え？」

アスランは顔を上げた。
好きな男がいるのにわざわざ俺と見合いをするというのだろうか。

「その男以外とは絶対に結婚しないと言って聞かないんだ」

「では・・何故俺を？」

ますます話が見えない。

「だから、君なのだ」

「ですが、その方は決めた人がいるのだと」

「彼女の想い人は君だからだよ」

アスランはわずかに目を見開いた。
誰か思い当たる女性を頭で探る前に、ウズミがそれを教えてくれた。

「君の見合い相手は儂の娘だ」

心臓の鼓動が身体を揺らした。
頭のなかでは現状が上手く咀嚼できていないのに、ドクドクと脈打つ鼓動と血管の巡るスピードが加速して身体ばかりが熱くなる。

「経済界の期待のホープに、あんなバカ娘はどうかとは思うが」

「そん・・な・・」

「父親としては是非、娘をもらってくれればと思っているよ」