BAD BOY




揶揄するようなアスランの問いかけに、カガリは押し黙った。
明るくさっぱりとした性格のカガリは男友達も多く、空手部の練習では男子生徒と組み手をすることもある。
しかし、こんな風に妖しい目で捉えられ、意味ありげに身体を近づけられることは初めてだった。
それでも馬鹿にされるのが癪で、カガリはありったけの気力を振り絞り、アスランを睨み付けた。

「そうか、じゃあ良いこと思いついた」

カガリに睨み付けられることなど意にも介さず、カガリが何も答えないのを返事と取ったアスランは、何か閃いたという風に瞳を細めると、カガリの頬を固定したままその首筋に顔を埋めた。

「・・・ひっ」

首筋を舐め上げられたカガリが、再び小さな悲鳴を上げ、アスランから逃れようと首を振り身を捩ったが、アスランに密着させられた身体を壁に押し付けられ動けない。

「本当に悪いと思っているなら、拒むなよ」

その声に、今しがたまでの、どこか小動物を嬲って楽しむような色は消えていた。
がらりと雰囲気の変わった冷たい声に、なりふり構わず首を振っていたカガリが思わず動きを止め視線を向けると、鋭い刃を思わせる冷徹に光ったエメラルドとかち合い、カガリは恐怖のあまり逆らうことが出来なくなった。

「っん・・・ぅ・・・」

抵抗の止んだカガリを、アスランは思う存分に嬲った。
首筋を舐め上げていた舌を、顎、頬と這わせ、耳にたどり着くと、耳の奥まで舌を入れ、ぴちゃぴちゃと音を立てて蹂躙する。
そしてまた肌をなぞりながら舌を下降させていき、最後に思いっきり首筋を吸い上げた。
時間にして十分ぐらいだったか、その間固く目をつぶり、身を震わせながら、終わりを願ってアスランの蹂躙に耐えていたカガリは、アスランの顔が離れていく気配を感じてほっと息をついた。
しかし安堵で身を緩めたカガリに、アスランは冷たく言った。

「これだけのことで君の罪が許されたとでも?」

「え・・・」

外の陽はほぼ落ちかけ、電気をつけていない部室は暗かった。
それにもかかわらず、カガリのすぐ傍にあるアスランのエメラルドの瞳が煌々と輝いていた。

「これぐらいじゃ全然足りない。俺の気が晴れないよ。君にはこれからもこの恐怖を味わってもらうつもりだから」

そう宣言すると、アスランはやっと一歩後ろに下がり、同時にカガリを掴んでいた手も放した。

「そんな・・・」

アスランから解放されたカガリは、足に力が入らず、ずるずると壁伝いに座り込んだ。
舌で散々舐め上げられた耳と首筋が酷く熱い。
もうあんな目には二度と会いたくなかった。
今もまだ、震えが止まらない。

「あれから転校した先で、俺は勉強にスポーツと色々努力して、人に優等生とか模範生とか言われるようになったけど、胸の奥にある君につけられた幼いころの傷がいまだに痛い。心の傷は身体と違って、永遠に癒えないんだ。だから人を傷つけてしまったら時効はない。罪は一生続くんだ」

床にへたり込むカガリを、アスランは蔑むように見下ろした。

「でも、だからってこんな・・・」

「さっきのごめんなさいは嘘か?悪いと思っているなら、君は俺に逆らえないと思うが?」

「・・・っ」

カガリはびくりと言葉を詰まらせた。
アスランには確かに悪いことをしたと思う。
それは嘘ではないし、出来ることなら許して欲しいと思っているが、だからといってこんなのはおかしい。
しかし冷たい目で見降ろしてくるアスランに身を竦め、先ほどのショックが尾を引いているのもあり、カガリはそれを上手く言葉にできなかった。
悔しさともどかしさがないまぜになって、じんわりと琥珀の瞳が滲む。

「怖かったら好きなだけ泣けよ。でも、やめはしない。君も俺の苦しみを味わうべきだ」

そう言い捨てるとアスランは踵を返し、一度も振り返ることなく、呆然と座り込むカガリを一人残し、部室から出て行った。
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