BAD BOY
白く淡い日差しが、冬の終わりと春の始まりを告げている。
その春の穏やかで優しい日差しのなかを、金髪の髪を輝かせながら、カガリは駆けていた。
「やだっ・・やめてよカガリちゃん!!」
カガリの目線の先には、藍色の髪の少年。
必死に逃げ惑っていたものの、俊足のカガリにすぐに追いつかれ、腕を取られれば、幼さを多分に残した少年特有の高い声で、涙まじりの悲鳴をあげる。
逃れようと腕をめちゃくちゃに振り回すものの、一回り身体の大きなカガリにぐいと引き寄せられ、逃げられないことを悟れば、その瞳に涙をあふれさせた。
「カガリちゃんっ、やだよ、ぶたないでっ」
カガリを見つめる少年の、濡れたエメラルド・グリーンの瞳には、怯えと恐怖がくっきりと浮かんでいた。
オーブ高校二年B組。
カガリの通う高校は、文武両道をモットーとした由緒ある進学校だ。
ここでカガリは部活動に打ち込みつつ、仲の良いクラスメイト達に囲まれ、楽しい高校生活を送っている。
そんな絵に描いたような理想の高校生活に、変化が起きたのは、梅雨が明け、太陽が急に眩しくなった頃だった。
「今日はホームルームの前に、皆さんにお知らせがあります。このクラスに転校生がくることになりました」
ホームルームが始まる前の朝の教室が、担任であるラミアス先生の言葉に一気に沸いた。
どんな子がやってくるのか。
男か女か。
生徒たちの好奇心が一気に膨れ上がる。
むろんカガリもその一人であった。
気の合う子だったらいいな、友達になりたい。
そんな風に思っていると、先生の入ってという合図とともに教室のドアが開いた。
その瞬間、ざわついていた教室が、急に静かになり、皆の視線は転校生にくぎ付けになった。
すらりとした長身に、濃紺の髪。
完璧に整った顔立ちに、綺麗な緑色の瞳。
教室の空気を一瞬で変えてしまう程、彼の容姿は抜きん出ていた。
転校生は、三十人弱の視線を受けながらも緊張した様子もなく、ゆっくりと中央まで歩いていく。
「今日からこのクラスの一員になったアスラン・ザラ君です」
担任の紹介を受け、転校生がクラスメイトに顔を向けた。
「アスラン・ザラです。父の仕事の都合でプラントから引っ越してきました。宜しくお願いします」
穏やかな笑みをたたえた口元から出た声は、その容姿に見合う低く心地いい響きを持っており、その日のの昼休みには既に、学校中の話題の人となったのだった。
「なんか、すっごいわねー」
休み時間、早速転校生を取り囲んだ女子生徒達を横目でみながら、ミリアリアが呆れたように言った。
転校生はその容姿で、さっそく女子生徒たちを惹きつけてしまっていた。
「ザラ君、今どこに住んでるの?」
「ザラ君は、前の学校で何か部活とかやってた?」
「ねえ、携帯の番号教えてー!」
女子たちが転校生の机をずらりと囲み、質問攻めにしている。
転校生は女性に慣れていないのか、女の子たちの勢いにやや圧倒さえながらも、質問に笑顔で答えており、その様子を、他のクラスメイト達が遠目で伺っている。
皆、転校生が気になるのだ。
「ええー!ザラ君って、ザフト出身なの!!すごーい」
転校生を取り囲んでいた女子生徒が感嘆を交えた声を上げ、一気に湧いた。
当然、その声は教室中に届く。
ザフト高校といえば、学力はプラント一で、生徒のほとんどは政治家や企業の重役クラスの子息という超がつく名門校だ。
オーブ高校がいくら伝統ある進学校とはいっても、ザフト高校とは比べものにならなかった。
「へーえ、前の高校、ザフトだったんだ。よくうちの学校に来たわねえ」
ミリアリアもカガリと同じような感想を持ったらしい。
家の都合とはいえ、名門で名を轟かすザフト高をやめるのは勿体ない話だった。
転校生はいかにも品性方向という感じで、頭もよさそうだ。
友達になりたいと思っていたけど、ああいう人は自分とは縁のないタイプだと、カガリは遠目で女子生徒に囲まれた転校生を見やった。
――――そのまま、クラスメイトという以外、何も接点もないまま、同じ空間にいながら全く別の高校生活を送るものだと思っていたのに。
「アスハさん、ちょっといいかな」
彼が転校してきたことで、カガリの高校生活は一変することになるのだ。
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