藍色の秘密
「アスラン・・!」
抱きついた身体は、とても冷たかった。
それが哀しくて、カガリは彼の体に回した腕になお一層力を込めた。
「カガリ・・」
アスランは自らにしがみ付く少女に、ゆっくりと視線を向けた。
「助けにきたって・・何をやっているんだ、君は。危ないじゃないか・・」
そう言う彼の言葉にはしかし、怒りは全く籠っていなかった。
「仕方ないだろ、お前が心配だったんだから。素直に礼を言えよな」
アスランの大きく広い胸に顔を埋めがら、カガリは涙声で言った。
その姿勢のまま彼の鼓動を感じていると、アスランの手がゆっくりと持ち上がり、カガリの髪を梳いたのが分かった。
カガリの感触を確かめるような指の動き。
「夢じゃ・・ないんだよな」
何度か金髪を梳いて、アスランはポツリと呟いた。
「うん・・」
二人の再会が現実だと分かるように、カガリは身体を起こし、アスランの冷えた手を両手で握った。
伝わる体温が、自分がここにいることを示してくれるように。
カガリの想いが通じたのか、アスランもぎゅっと手を握り返してくれて、二人で互いの体温を確かめ合う。
殺伐とした地下牢に、二人の居る場所だけ穏やかで暖かな空気が流れる。
しかし、ずっとこうしてはいられない。
近づいてくる二人分の足音に、カガリは振り返りながら言った。
「イザークとアレックスが協力してくれたんだ」
「アスラン、貴様牢に入れられるなんて、この腑抜けが」
カガリより遅れて到着したイザークが、牢の前で冷たい言葉を吐く。
けれども、彼もまた心のなかでアスランの無事を喜んでいるに違いないのだが。
しかし、アスランは仲間との再会に顔を綻ばせはしなかった。
イザークの隣に立つ人物を瞳が捉えた途端、先ほどとは違う殺伐とした冷たい空気を、彼は纏ったのだ。
「ああ。してやられたよ。そこのアレックスとやらにな」
自嘲を含んだ嫌な笑みを浮かべ、アレックスを顎で示す。
「自分で俺を捉えておきながら、助けに来るなんて、英雄きどりか?」
「アスランっ・・」
敵意を剥き出しにするアスランに、カガリは思わずアスランの腕を取った。
しかしアスランは気にも留めず、辛辣な言葉を続ける。
「そうまでしてカガリの関心を引きたいのか?イザークまで丸め込んで・・・。結構なことだな」
「やめろっ・・アスラン」
「カガリ、やはり君もアイツがいいのか・・」
的外れなアスランの言葉に、カガリは頭に血が上るのを感じた。
どっちが好きだとか、そういう問題ではないのだ。
「馬鹿野郎っ!アレックスはな、酷い怪我をしているんだ・・それなのに、お前を助ける為に、無理をして・・」
「いいえ、カガリ様。アスラン王子の仰る通りです」
しかし、カガリの言葉を遮ったのは、今まで沈黙を守っていたアレックスだった。
「アレックス・・何を・・」
「私はカガリ様の為に、アスラン王子をお助けしようと思ったのです」
「やはりお前はあくどい奴だな。大人しく順従な顔の裏で、卑劣なことを考えている。俺も全く騙されたよ」
アレックスの淡々とした言葉に、アスランが歪んだ笑みを浮かべる。
同じ容姿に同じ声を持つ二人。
それなのに何故こんなにも相容れないのか。
それは、互いに相手がいることで被った犠牲を考えれば、当たり前のことなのだが。
カガリにはもう、耐えられなかった。
二人がいがみ合い、憎しみ合うところはもう見たくないのだ。
「もう辞めろよ、お前ら。双子の兄弟じゃないか・・!」
カガリの悲痛な声に、藍色の二人がこちらを向く。
そんな動きも、示し合わせたように二人は全く同じだった。
正真正銘、双子なのだ、彼らは。
「あのなアスラン、アレックスも今追われているんだ。二人だったら、デュランダルに立ち向かえるかもしれないぞ」
一度アスランに向けた視線を、アレックスに向けてから、カガリは交互に二人を見た。
「二人で手を取り合うことはできないのか?お前たちは、パトリック様が亡くなって、互いに唯一の肉親なんだぞ」
縋るような琥珀の瞳に、アスランとアレックスは顏を伏せた。
「二人なら、きっと・・」
「悪いが、感動の再会は一旦中断してもらっていいか」
言葉を重ねようとしたカガリに、待ったをかけたのはイザークだった。
サファイアの瞳を鋭く後方に向けている。
「どうやら、気づかれたようだ」
イザークの言葉に、カガリは慌てて耳を澄ましてみるが、不穏な音は何も聞こえない。
しかし、訓練されたアスラン達には、カガリには感じ取れないほどの些細な人の気配を読み取ることができるのか、イザークの言葉に同意を示した。
「そうらしいな・・」
俯いていたアスランがすっくと立ち上がり、腰回りの汚れを手で払ってから、鉄柵越しにアレックスを見据えた。
「貴様との決着は、ここを無事に脱出してからだ」
それだけ言うと、アスランはカガリの手を掴み立ち上がらせ、手をつないだまま、牢の外に出た。
そのまましっかしとした足取りで廊下を進んでいく。
「カガリは俺のものだ」
牢の外に立っていたアレックスとのすれ違いざま、アスランが発したその言葉に、カガリは胸を痛め、その痛みを引きずったまま、深夜の牢獄から脱出を試みるのだった。
抱きついた身体は、とても冷たかった。
それが哀しくて、カガリは彼の体に回した腕になお一層力を込めた。
「カガリ・・」
アスランは自らにしがみ付く少女に、ゆっくりと視線を向けた。
「助けにきたって・・何をやっているんだ、君は。危ないじゃないか・・」
そう言う彼の言葉にはしかし、怒りは全く籠っていなかった。
「仕方ないだろ、お前が心配だったんだから。素直に礼を言えよな」
アスランの大きく広い胸に顔を埋めがら、カガリは涙声で言った。
その姿勢のまま彼の鼓動を感じていると、アスランの手がゆっくりと持ち上がり、カガリの髪を梳いたのが分かった。
カガリの感触を確かめるような指の動き。
「夢じゃ・・ないんだよな」
何度か金髪を梳いて、アスランはポツリと呟いた。
「うん・・」
二人の再会が現実だと分かるように、カガリは身体を起こし、アスランの冷えた手を両手で握った。
伝わる体温が、自分がここにいることを示してくれるように。
カガリの想いが通じたのか、アスランもぎゅっと手を握り返してくれて、二人で互いの体温を確かめ合う。
殺伐とした地下牢に、二人の居る場所だけ穏やかで暖かな空気が流れる。
しかし、ずっとこうしてはいられない。
近づいてくる二人分の足音に、カガリは振り返りながら言った。
「イザークとアレックスが協力してくれたんだ」
「アスラン、貴様牢に入れられるなんて、この腑抜けが」
カガリより遅れて到着したイザークが、牢の前で冷たい言葉を吐く。
けれども、彼もまた心のなかでアスランの無事を喜んでいるに違いないのだが。
しかし、アスランは仲間との再会に顔を綻ばせはしなかった。
イザークの隣に立つ人物を瞳が捉えた途端、先ほどとは違う殺伐とした冷たい空気を、彼は纏ったのだ。
「ああ。してやられたよ。そこのアレックスとやらにな」
自嘲を含んだ嫌な笑みを浮かべ、アレックスを顎で示す。
「自分で俺を捉えておきながら、助けに来るなんて、英雄きどりか?」
「アスランっ・・」
敵意を剥き出しにするアスランに、カガリは思わずアスランの腕を取った。
しかしアスランは気にも留めず、辛辣な言葉を続ける。
「そうまでしてカガリの関心を引きたいのか?イザークまで丸め込んで・・・。結構なことだな」
「やめろっ・・アスラン」
「カガリ、やはり君もアイツがいいのか・・」
的外れなアスランの言葉に、カガリは頭に血が上るのを感じた。
どっちが好きだとか、そういう問題ではないのだ。
「馬鹿野郎っ!アレックスはな、酷い怪我をしているんだ・・それなのに、お前を助ける為に、無理をして・・」
「いいえ、カガリ様。アスラン王子の仰る通りです」
しかし、カガリの言葉を遮ったのは、今まで沈黙を守っていたアレックスだった。
「アレックス・・何を・・」
「私はカガリ様の為に、アスラン王子をお助けしようと思ったのです」
「やはりお前はあくどい奴だな。大人しく順従な顔の裏で、卑劣なことを考えている。俺も全く騙されたよ」
アレックスの淡々とした言葉に、アスランが歪んだ笑みを浮かべる。
同じ容姿に同じ声を持つ二人。
それなのに何故こんなにも相容れないのか。
それは、互いに相手がいることで被った犠牲を考えれば、当たり前のことなのだが。
カガリにはもう、耐えられなかった。
二人がいがみ合い、憎しみ合うところはもう見たくないのだ。
「もう辞めろよ、お前ら。双子の兄弟じゃないか・・!」
カガリの悲痛な声に、藍色の二人がこちらを向く。
そんな動きも、示し合わせたように二人は全く同じだった。
正真正銘、双子なのだ、彼らは。
「あのなアスラン、アレックスも今追われているんだ。二人だったら、デュランダルに立ち向かえるかもしれないぞ」
一度アスランに向けた視線を、アレックスに向けてから、カガリは交互に二人を見た。
「二人で手を取り合うことはできないのか?お前たちは、パトリック様が亡くなって、互いに唯一の肉親なんだぞ」
縋るような琥珀の瞳に、アスランとアレックスは顏を伏せた。
「二人なら、きっと・・」
「悪いが、感動の再会は一旦中断してもらっていいか」
言葉を重ねようとしたカガリに、待ったをかけたのはイザークだった。
サファイアの瞳を鋭く後方に向けている。
「どうやら、気づかれたようだ」
イザークの言葉に、カガリは慌てて耳を澄ましてみるが、不穏な音は何も聞こえない。
しかし、訓練されたアスラン達には、カガリには感じ取れないほどの些細な人の気配を読み取ることができるのか、イザークの言葉に同意を示した。
「そうらしいな・・」
俯いていたアスランがすっくと立ち上がり、腰回りの汚れを手で払ってから、鉄柵越しにアレックスを見据えた。
「貴様との決着は、ここを無事に脱出してからだ」
それだけ言うと、アスランはカガリの手を掴み立ち上がらせ、手をつないだまま、牢の外に出た。
そのまましっかしとした足取りで廊下を進んでいく。
「カガリは俺のものだ」
牢の外に立っていたアレックスとのすれ違いざま、アスランが発したその言葉に、カガリは胸を痛め、その痛みを引きずったまま、深夜の牢獄から脱出を試みるのだった。