藍色の秘密
「アスランは、地下にいるんだな」
長い廊下の先を見据えながらイザークは言った。
「そうだ、彼は地下牢に収容されている」
それに応えるアレックスの言葉が、しんと静まり返った、真っ暗な廊下に吸い込まれていく。
「ぐずぐずしてる暇はない、行くぞ」
アレックスの返答を確かめてから、イザークは歩みを速めた。
小走りで彼の背中を追いながら、カガリは横をいくアレックスに視線を向けた。
「アレックス、大丈夫か?」
「はい・・傷も開いていませんし、足手まといにはなりませんから、安心して下さい」
「・・・」
確かにアレックスは足音も立てずに駆けているが、その足取りはいつもより重い気がしたし、呼吸も若干苦しそうだった。
(どうして、ついてきたんだよ・・)
青白いアレックスの顔を見つめて、カガリは俯き唇を噛んだ。
アレックスが共に来ると言ったとき、考えるまでもなく、カガリは即座に反対した。
しかしアレックスは頑として譲らず、カガリの声に首を縦に振らなかった。
挙句の果てにカガリと同意見だと思っていたイザークが、デュランダル側に精通しているアレックスがいた方が何かと便利かもしれないと言い出し、結局三人でアスランの救出に向かうことになったのだった。
心配するカガリに、身体は大丈夫だと、アレックスは言ったけれど。
(絶対に無理をしている・・)
本当は動くのだって辛いはずなのだ。
傷口を目の当りにして、素人のカガリでも分かるほどの深手だった。
(それなのに、どうして彼は・・)
アレックスが何を考えているのか分からなかった。
それでも、もしかしたら・・
(私の為、なのだろうか・・)
アスランもアレックスも心配なカガリの気持ちを汲んでのことなのだろうか。
「そこの曲がり角を左だ」
アレックスの指示に従い、先頭を行くイザークが左に曲がる。
カガリたちもそれに続くと、その先に階段が見えた。
「あれが地下牢に続く階段だ」
(もうすぐか・・)
アスランはもう、すぐ傍にいるのだ。
アレックスの言葉に、塞いでいたカガリの気持ちが熱く高まった。
(なんとか無事に、ここまで来れてよかった)
実際、監獄への侵入は、思っていたよりずっと容易かった。
監獄の構造が頭にあったアレックスが見張りの少ない入り口へ案内し、イザークが鮮やかに見張り達の頭を打って気絶させ、その間に監獄へ侵入した。
侵入したときと同じ手筈で、監獄内部も進んでいき、三人は必要最小限の労力でここまでやってくることができたのだ。
地下牢へと続く階段を降りるにつれて、空気が湿ってくる。
地下特有の嫌な空気に、カガリは思わず顔をしかめた。
かびくさい空気で満たされた、じめじめした地下牢。
環境はさることながら、通常の牢よりも、地下牢の待遇は更に悪い。
地下牢には、凶悪犯や政治犯が主に収容されるのだが、彼らの反抗心を折り、生きる力を削り取る為だと言われている。
(こんなところに・・アスランは閉じ込められて)
しんと冷えた空気を肌で感じながら、アスランの不憫さにカガリは胸を痛めた。
囚人たちは寝静まっているのか、地下牢は死に絶えたように静かだった。
生ける者が全て死に絶えた闇の底のような地下牢を、三人は進んでいく。
入り組んだ通路を何度か曲がっていくと、突き当り出た。
そこが地下牢の一番奥であり、突き当りに配置された牢こそ、アスランの収容されている牢だった。
「アスランっ・・」
逸る心を抑えきれず、カガリは真っ直ぐな廊下を駆け出した。
鉄の柵を掴んで、牢のなかを見れば、探している人はそこにいた。
彼は眠ってはおらず、牢の隅で片足を折り、もう片方の足を投げ出すようにして座っていた。
「カガリ・・?どうして・・?」
俯いていたアスランが、ゆっくりと顔を上げ、不思議そうに瞳を瞬かせた。
「アスランっ・・私、お前を助けにきたんだ・・」
そう言うなり、カガリはアレックスから渡された鍵を、牢の鍵穴に差し込んだ。
気があせってしまって鍵先がなかなか穴に入らず、何度も周りにぶつけてしまったが、何かが外れるような重い金属音がすると、ゆっくりと牢の扉が開いた。