藍色の秘密


「く・・・っ」

衝撃に耐えるようなアレックスのくぐもった声がして。
ようやくカガリは、理解した。
アレックスが身を挺して自分を守ってくれたのだと。
カガリが何か言うより先に、アレックスはカガリの身体を放すと、衛兵にとどめを刺した。
ぐっと喉を詰まらせて、兵が地面に突っ伏したのを見届けると、アレックスもまた脱力したように地面にしゃがみ込んだ。

「アレックス!」

彼を追う様に、カガリも膝をつく。
焦燥と恐怖で身体は凍え、それなのに心臓は激しく脈を打っていた。

「アレックス!大丈夫か?!」

蹲るアレックスの背中に手を回すと、そこはぬかるんでいた。
嫌な感触に、慌てて掌を見ると、べっとりとついた赤い血が月光に照らされた。
その不吉な色に、カガリの身体が痺れる。

「私は大丈夫です・・カガリ様は早く逃げて下さい」

カガリを安心させようと思ったのか、アレックスは優しく微笑んだが、その顔は青白かった。
思い切り背中を斬りつけられたのだ。
闇に邪魔されてよく見えないが、きっと傷は深いはずだった。

「私のせいだ・・アレックス、ごめん・・ごめん・・!」

アレックスは呼吸さえも苦しそうだった。
けれどもそれを顔に出さまいと、必死に耐えているのが見て取れる。

「いいえ・・カガリ様が謝ることではありません。カガリ様をお守りするのが、私の役目なのですから」

そう言って、アレックスは困ったように薄く微笑んだ。

「ですが・・それもここまでのようです」

アレックスの言葉に、カガリは息を止めた。

「アスラン王子の元へ、お早く・・。そこから先は、オーブに行かれるといいでしょう。そうすればプラントも、手を出せないでしょうから・・」

「駄目だ!!お前を置いていくなんて、絶対嫌だ!!」

その想いが、一瞬で全身を稲妻のように駆け抜けた。
弾かれたようにカガリはそう叫んで、あとは衝動のまま、本能が望むままに動いた。
ドレスの裾を力まかせに引き裂いて、その布でアレックスの傷口を縛る。

「カガリ様っ・・何を・・駄目です・・。お早く・・」

「アレックス、お前も一緒に逃げるんだ。これは命令だ!」

カガリに早く逃げるよう促すアレックスを一蹴すると、彼の腕を自らの肩に回し、カガリはゆっくりと立ち上がる。

「・・・っ」

傷に走った痛みに、アレックスが顔をしかめるが、カガリもまた、男の身体の重みに耐えていた。
それでも息を吸い込むと、地面を踏みしめるようにゆっくりと歩み出す。

「無謀です・・カガリ様・・どうか、私を置いて・・」

「駄目だ・・アレックス・・」

一歩一歩ゆっくりながらも、懸命にカガリは歩んでいく。
アレックスを見捨てるなんて、最初からカガリにはできない相談だった。
たとえアレックスがアスランを殺そうとしても、カガリの純潔を奪っていても。
それでも、彼に死んでほしくない。
彼と過ごした二年間は、大切な宝物なのだ。

「今度は、私がを守る」

いつも優しく、守り支えてくれた大切な人を。

その想いを支えに、カガリはゆっくりと夜の闇のなかを進んでいった。
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