藍色の秘密
ベッドの上で、カガリは身体を丸めていた。
部屋の明かりはベッドの脇にある小さなランプだけ。
カーテンは閉めきって、夜空に浮かぶ月も明かりも入って来ない。
オレンジ色のランプだけが灯る薄暗い部屋の中で、カガリはぼんやりと今までのことを思っていた。
(アレックス・・)
彼に抱かれたあの夜から、数日が過ぎていた。
それでも、彼がどうしてあのような行動を取ったのか、いくら考えても分からない。
(どうして・・どうして・・あんな・・)
優しく穏やかだったアレックス。
その彼が、何故急に反乱など起こし、自分を無理やり抱いたのか。
カガリはきゅっと、胸元を押さえた。
抱かれたのは、一度ではなかった。
初めてアレックスに抱かれて気を失った自分を、アレックスは眠りから引き戻し、何度も抱いた。
幾度も意識を飛ばし、何度許してと懇願しても受け入れられることはなく、次第に何もかもが分からなくなって。
この身体は、声は、自分のものなのかさえも。
そして気がついたときには、昼下がりの淡い日差しを浴びながら、ベッドで一人眠っていた。
あれは悪夢だったのだと思いこもうとしても、身体の節々が辛いと訴えてくる。
それでも必死にバスルームに向かって、鏡に映った自分に息を呑む。
体中のあちこちに、真っ赤な痣が付けられていたからだ。
特に首と鎖骨まわりには、おびただしい量の紅い花が咲いていて。
「・・・っ」
カガリは自分の身体を守る様に抱くと、その場にしゃがみこんだ。
なかったことには、もう、できない。
自分はアレックスに正真正銘抱かれてしまったのだ。
「ぅっ・・うう・・」
喉から嗚咽を漏らし、しゃがみこんだまま、カガリは泣いた。
変わってしまったアレックス。
安否不明のアスラン。
アレックスに抱かれた自分。
アスランがこのことを知ったら、どう思うだろう。
―――カガリ、愛してる
アスランの熱を含んだ瞳と声でそう言われれば、恋愛に疎い自分でも、アスランが心の底からカガリのことを愛してくれていると分かった。
(だけど・・)
アスランがこのことを知ったら、どれだけ悲しみ傷つくだろう。
考えただけで、カガリは倒れそうになる。
色んな気持ちがない混ぜになって、カガリはひたすら泣き続けた。
アレックスはあれからこの部屋にはやってこない。
プラント王宮占領の後処理に追われているのだろう。
ここ数日ずっと泣き過ごして、さすがに涙は枯れ果てた、そんな夜だった。
不意に、窓の方からコトリ・・と音がした。
「?」
窓の方に顔を向けるも、別段変わったことはない。
顔を前に戻すと、再びカタ・・と小さな音がする。
(風か?)
強風で飛ばされた木の枝か何かが、窓にぶつかっているのだろうか。
だけど、窓の外からは風の音も、雨の音もしない。
訝しんでいると、先ほどよりもガタンと大きな音がした。
(まさか・・侵入者か?)
ミネルバは、アレックスとデュランダルを中心とした反乱軍の牙城だ。
二人に危害を加えようと目論む人間が侵入しようとしてもおかしくない。
(だけど・・どうやって警備の目をくぐって・・)
城の外にも中にも何重にも厳重な警備が施されている。
その網の目を掻い潜るなど、不可能なはずだ。
それに仮にヴェサリウスに忍び込むことができても、カガリが監禁されている部屋は三階だ。
(だから・・だから・・きっと、風の音だ・・)
そう言い聞かせ、ゆっくりと窓際まで歩いていき、ごくんと唾を飲んでから、カガリは勢いよくカーテンを開けると、会いたかった人がそこにいた。
「アスラン!」