藍色の秘密




「あっ・・」

突然のことで何が何だか分からず、カガリの身体は硬直し、アレックスの身体の熱も感触も感じるゆとりはなかった。
アレックスの反乱について問い詰めていたはずなのに、一体どうなっているのか。

「アレックス・・!」

彼の真意と話の流れが分からない。
説明してもらおうと、カガリが顔をあげた瞬間を、アレックスは見逃さなかった。
カガリを強く仰向かせると、その唇に強引に自分の唇を押し当て、口づける。
同時に身体に巻きつけられた腕と後頭部を抑える手に力が籠ったのを、カガリは感じた。

「うっ・・」

カガリは一瞬身体を固くし、すぐにアレックスから逃れようと身体を揺すったが、適わない。
そのままアレックスからの口づけを受け続ける。

「ん・・」

ようやく解放されたときには、身体に力が入らなくなっていた。
アレックスにもたれかかる様に身体を支えていたカガリだったが。

「わっ・・」

不意に膝裏に腕を回され、身体を横抱きに抱えあげられる。

「やだっ!アレックス、何するんだ!降ろせよ」

「危ないので、暴れないで下さい」

床に降りようと身体をばたつかせるカガリだったが、アレックスは取り合わずに、そのまま部屋を突っ切って行き、その身体を部屋の奥にあるベッドに横たえた。

「アレッ・・ん・・」

起き上がって逃げようとする前に、アレックスが覆いかぶさってきた。
抗議の言葉をあげようとした唇も、形のいい薄い唇で再び塞がれてしまう。
今度は先ほどとは違う、深い口づけだった。

(いやだ・・何で・・)

アレックスが何故こんなことをするのか分からなかった。
カガリの心境を知ってか知らずか、アレックスはなかなか口づけを解いてくれない。
混乱と戸惑いと恐怖が混ざり合って、カガリは涙をこぼした。
頬を伝う涙に気が付いたのか、アレックスがやっとカガリの唇を解放し、互いの唇をつなぐ銀色の糸を舐めとると、ゆっくりと上半身を起こす。
至近距離にあるエメラルドの艶やかに濡れた妖しい程の美しさに、すくんでしまいそうな心を叱咤して、カガリは涙で濡れた厳しい目でアレックスを見据えた。

「アレックス・・何するんだよ・」

「カガリ様はプラントの皇太子と婚儀をあげられる。それならばカガリ様は、プラントの皇太子となった私の花嫁です」

カガリの心に衝撃が走り、次いで怒りが湧き上がる。

「違う!!私はプラントの皇太子じゃない、アスラン個人と結婚するんだ!!」

叫びながら、自分でも幼い発言だとは自覚していた。
それでも叫ばずにはいられなかった。
アスランからの求婚の言葉が鮮烈に、頭のなかで弾けたからだ。

―――プラントの皇太子としてではなく、ただの一個人のアスラン・ザラとして、アスハの当主としてでの君ではなく、ただのカガリに言うよ、俺と結婚してくれないだろうか

自分たちは確かにプラントの王子とアスハの姫だが、それでもアスランとカガリとして愛し合っているのだ。
たとえ他人から笑われようが、それはカガリの確固たる想いだった。
しかしアレックスはカガリのひたむきな想いを笑いながら一蹴することもなく、静かな瞳でカガリをじっと見下ろし、やがて落ち着いた声で言った。

「カガリ様はアスラン王子をお慕いしているのですか?」

「当たり前だ!私はアスランが好きだ。だから求婚も受けた!」

間髪入れずにカガリは威勢の良い声で答えたが、アレックスは尚も冷静にカガリを見据えている。
その瞳には落ち着きと一緒に切なさが籠っていて、カガリは戸惑い怯む。
アレックスは一体何を言いたいのか――――?

「本当ですか?本当に、そうなのですか?アスラン王子から愛を語られて、いつしかご自分もアスラン王子を愛していると、そう思いこんでいるだけではないのですか?」

アレックスの言葉にカガリは僅かに目を見張った。
自分の芯が、ぐらついたように気がした。

「あなたは情に絆され易いお方だから・・」

言いながら、アレックスの指がカガリの輪郭をゆっくりとなぞった。
カガリの頬の感触を確かめるような、繊細で、それでいて艶めかしい動きだった。
言いようもない、ぞくぞくとした感覚がカガリの体中を走った。

「あ・・」

「カガリ様・・」

小動物のように怯え震えているカガリを再び抱き込むと、アレックスはその滑らかな首筋に口付けた。

「ひっ・・」

柔らかな唇の感触を肌に感じて、カガリは息を呑む。
怖かった。
自分の中にある何かが、アレックスに壊されてしまいそうで。

「いや・・嫌だーーー!!」

恐怖で胸がいっぱいになって、カガリは叫んだ。






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