藍色の秘密


広間にいた兵士達の視線が一点に集まる。
もちろん今まさに全ての決着がつこうとしていたアレックスとアスランも例外ではなかった。

「カガリ・・」

「カガリ様・・」

二人の目線の先には、広間の扉に手をつき、息を切らしているカガリの姿があった。

「カガリ・・どうして・・」

自分が死の瀬戸際にいたことすら忘れ、アスランは驚愕に目を見開いた。
カガリのことは、イザークに任せたはずだった。
無事に王宮から脱出できたものだと思っていた筈の彼女が、何故ここにいるのか。
しかし、無鉄砲なカガリのことだ。
イザークを振り切ってここまで来たに違いない。
反乱軍が押し寄せる王宮の中を、無事ここまでこれたことは奇跡に近かった。
戦いに巻き込まれ、命を失ってもおかしくない状況なのだから。

「アレックス・・お前どうして・・!!何だよ!これは?!」

広間にいる全ての者の視線が自分に向いていることなど構いもせず、カガリは真っ直ぐにアスランとアレックスだけを見据えていた。
しかしアレックスはカガリの問いには答えない。

「アスハの姫を丁重に保護するんだ」

動じた様子もなく、右手を挙げて兵に命ずる。

「アレックス!どうしてこんなことするんだよ!!どうして二人が戦わないといけないんだ!」

悲痛な声で叫びながら、カガリはあっという間に拘束され、連行されていく。
悲しみと憤りを多大に含んだその悲鳴のような叫びに、アレックスは顔をわずかに曇らせた。
冷徹に親衛隊を切り殺したアレックスが初めて見せたその僅かな隙を、二コルは見逃さなかった。

「アスラン!逃げて!」

腕から血を流しながらも、猛然とアレックスに斬りかかる。
アレックスは身体をを翻して剣を避け、一歩後ろに下がった。
その隙間に、二コルと共に僅かに残った直属部隊が、アスランを守るように立ちはだかった。

「二コル!!お前、腕が!!」

「アスラン!!隠し扉に入ったらすぐ右手にあるボタンを押して下さい!!入り口が崩れて誰も追ってこれなくなります!!」

それは即ち、アスラン以外の誰も、ここから脱出できないということだった。

「ニコル!!」

「アスラン!早く!!」

二コルの出血はひどく、もう長くは持たないことは明らかだった。
数十名いた直属部隊の兵士たちも、今は数えるほどしかいない。
けれども大切な友人を、部下を置いて、自分一人が逃げて生き永らえるなど、アスランには耐えられなかった。
彼らと一緒に自分もここで、命が尽きるまで、最後まで、戦いたい。

(でも・・)

プラントの正統な皇太子だと堂々と名乗るアレックスが許せなかった。
それに・・・

(カガリ・・・)

本当だったら、明日自分の花嫁になっていた少女。
そのカガリが反乱軍に捕まった。
アレックスの手に落ちたのだ。

(嘘だ・・こんなの・・)

昨日まで、アスランは幸福が日常だった。
プラントの王子として、重責を抱えながらも、愛する人がいて、頼れる仲間がいて。
それらが今まさに、アスランの前から消えてなくなろうとしていた。

「くっそーーーー!!!!」

やりきれない辛さを抱えながら、アスランは広間を駆け抜けた。








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