藍色の秘密
互いの君主を守る為、反乱軍とアスランの直属部隊が入り乱れ、その中心でアレックスとアスラン、そしてアスランを取り囲む親衛隊たちが睨みあっていた。
「たった一人で俺たちと戦おうなんて、辞めた方がいい。ザフトの反乱軍に守ってもらってた方が、身のためだぜ」
剣先をアレックスに向けて、ハイネが薄く笑いながら言った。
カガリの護衛にあたっているイザークと、アプリリウスの住民を避難誘導しているディアッカを除いた、四人の親衛隊がアスランを守っていた。
アスランを含めて五人、もっともこの混乱のどさくさに紛れて彼は何とか逃がすつもりだが、それでも四対一。
その上、親衛隊は皆、ザフトの赤服。
アレックスを倒し、アスランを逃がすには充分な戦力差だった。
「アスラン、アイツは俺たちが引き受ける。五分もすれば直属部隊は全滅する。その間にお前は逃げろ」
「だが・・お前たちは・・」
この場にいたら、確実に助からない。
仲間を置いて、自分一人だけ逃げるだなんて、アスランにはできなかった。
「いいから!分かったな。俺たちもアイツには腹が立ってるんだ!」
言うや、ラスティとミゲルが駆けだして、正面に立つアレックスに向かって斬り込んだ。
互いに全く無駄のない動きで、左右からアレックスに剣を振り下ろしたのだが、全て振り下ろしきる前に、二本の刃は弾き飛ばされ、代わりにアレックスの剣の先が美しい弧を描いた。
何が起こったのかも分からないまま、二人とも首筋に熱を感じた瞬間、床に崩れ落ちていた。
「ミゲルッ!ラスティッ!」
「貴様!よくも!」
思わず駆け出そうとしたアスランよりも一瞬早く、ハイネが飛び出した。
しかし、ハイネが振り下ろした剣先にアレックスの姿は既に無く、彼の姿を見とめるよりも先に背中に強烈な熱さを感じ、それがハイネの感じた最後の感覚となった。
剣がカランと滑り落ちると、それを追う様にハイネの身体も音をたてて床の上に突っ伏した。
「な・・・」
床に転がる三つの身体を、アスランは驚愕で彩られた瞳に見据えていた。
信じられなかった。
ザフトの赤服が、こんなに容易く、一瞬でやられるだなんて。
しかも相手に一太刀も与えられぬまま。
(嘘だ・・こんな・・)
慄くアスランを、アレックスは冷徹な瞳で見据え、ゆっくりと近づいてきた。
銀色に光る刃の先から、まだ温かい血が滴り落ちている。
「アスラン!危ない!」
二コルは慌ててアスランの前に立ちふさがったが、あっという間に腕を斬りつけられてしまった。
腕を押さえて蹲る二コルに一瞥もくれず、アレックスはアスランのすぐ前までやってきた。
互いの瞳に、自分そっくりの男の顔が映る。
血塗れた双子の邂逅だった。
「アスラン王子・・オーブでお会いした時は、まさかこのようなことになるとは、夢にも思いませんでした」
「お前・・」
「ただの護衛が、双子の兄だったなんて、運命とは面白いものですね」
「お前いつから知っていた・・?」
アスランの掠れた問いに、アレックスは答えず、唇の端を持ち上げただけだった。
「私は剣を取りました。欲しいものを手に入れる為に。その為に、私はプラントの皇太子になる」
すうっとアレックスが剣を振り上げ、アスランは瞬時に反応した。
その一拍後に、刃のぶつかり合う音が響く。
「くっ・・・」
何とか今の一撃を押さえたアスランだったが、身体に響いた衝撃は凄まじかった。
立て直す間もないまま、間髪入れずに再びアレックスの刃が音を立てて襲いかかってくる。
防ぎきれずに、アスランの剣が弾き飛ばされ、空中でくるくると回転すると、カランと離れた場所に落下した。
「な・・」
(強い・・強すぎる・・)
これほどまでに強い人間を、アスランは今まで見たことがなかった。
ザフトの士官学校を主席で卒業した自分が、全く歯が立たない。
ヒュンっと空気を斬る音がして、無防備なアスランに、アレックスの刃が襲いかかる。
(俺は・・)
もう駄目だと思った。
ここで、死ぬのだと。
生の終わりをはっきりと感じた、その時だった。
「アスラ―――ン!!」
低いアルトの声が広間に響き、今まさにアスランの首筋を切り裂こうとしたアレックスの剣が、ピタリと止まった。
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