藍色の秘密




カガリをそっとベッドに横たえる。

「アスラン・・」

そのまま部屋を出ていこうとしたのだが、自分を見上げてくるカガリが可愛くて、アスランはベッドの横で膝立ちになった。
もう少しだけ、傍にいたいと思った。

「カガリ、プラントに君がいるなんて、何だかまだ信じられないよ」

言いながら、横になったカガリの髪を梳く。

「何言ってるんだよ。もう一か月以上もここにいるんだぞ」

「そうだな。ごめん。カガリはすぐにプラントに打ち解けたのにな」

軽く睨み付けてくるカガリに、アスランは苦笑した。
もともと気さくな性格のカガリは、プラントの女官や召使たちとあっという間に馴染み、アスランを驚かせた。
カガリの明るく元気な姿は見ている者を和ませ、可愛らしい外見と相まって、プラント王宮内にも好意的に受け入れられている。

「だけど、オーブが恋しくはないか?寂しい思いはしていないか?」

「そりゃ少し恋しくなることもあるけど、今はプラントでの生活が新鮮で、落ち込むことはないな」

「そうか」

アスランは微笑んだ。
カガリがプラントで寂しい思いをしていないことに安堵したのだ。
自分にはカガリを花嫁として、プラントに連れてきた責任がある。
彼女を守る責任が。
寂しい思いなんてさせないくらい、愛してやりたいとアスランは思っていた。

「それに・・アスランがいるから、寂しくないぞ」

「カガリ?」

「何でもない!」

アスランが目を見開くと、カガリは赤くなって、横を向いてしまった。
その状態を残念に思うも、彼の優秀な頭脳は冷静に、先ほどのカガリの言葉を反芻していた。
自分がいるから、寂しくないとカガリは言ったのだ。
アスランは頬が緩むのを抑えることができなかった。

「カガリ、今の言葉本当か?」

「知るか!忘れろよ」

「無理だ。だって、凄く嬉しかったから」

アスランは立ち上がると、反対向きに寝転がるカガリの肩を掴み、その顔を覗き込もうとする。
そうすると自らの吐息が耳にかかり、カガリの身体がピクリと震えた。

「こっちを向いてくれないか?」

「アスラン・・」

耳元で囁かれるのが堪らなくなったのか、カガリがゆっくりと寝返りを打ったのだが。

「わっ・・」

思いのほかアスランの顔が近くにあって、驚いたようだ。
慌てて掛け布団を頭からかぶろうとしたが、アスランはさせまいとその細い手首を掴んだ。
照れて恥じらうカガリが可愛くて堪らなかったのだ。
瞳は潤み、頬は真っ赤で。
あんな嬉しいことを言われて、こんな可愛い顔をされたら、どうしようもなかった。

「カガリ・・」

「アス・・う・・」

覆いかぶさり、赤い唇に口づけた。
角度を変えて何度も唇を重ねて、わずかな隙間から舌を忍ばせた。
熱い舌の侵入に、カガリの身体が一瞬震えたが、すぐにアスランを受け入れてくれた。

「ふ・・う・・」

咥内を愛撫して、舌を絡め取る。
自らの唾液がカガリの喉へと零れ落ち、カガリが必死に咀嚼する、その振動にますますアスランの熱は高まっていく。

(まずい・・このままじゃ)

カガリがプラントに訪れてから今日まで、口づけは何度も交わしていたが、こんなシチュエーションは、アスランがカガリに求婚した夜以来だった。
ベッドの上で寝そべるカガリに覆いかぶさり、深い口づけを交わすなど。
咥内だけじゃない、もっとカガリの奥を知りたい、全てを見たいと思ってしまう。
アスランは、名残惜しげに口づけを解いた。

「アスラン」

荒く呼吸をしながら、潤んだ目でカガリがアスランを見上げてくる。
唇は艶やかに濡れていて、無意識なのだろうが、誘っているように見えて、アスランは理性を総動員させなければならなかった。
でも、無意識だとしても、もしかしたら、今なら、カガリは自分を受け入れてくれるのではないのだろうか。
そんな甘く、魅力的な願望がアスランの胸に湧き上がった。

(だけど・・俺は君を守ると決めたんだ・・)

大切に愛したい。
アスランの脳裏に、オーブで強引にカガリの身体に触れたときのことが蘇る。
カガリが口づけに酔っているのを利用して、強引に押し切りたくはない。

「カガリ・・」

アスランはカガリの頬をゆるりと撫でた。

「大丈夫だ、婚礼をあげて、カガリが名実共に俺の妻になるときまで、ちゃんと待つから」

「アス・・ラン」

「でも、これぐらいはいいだろう?」

再び唇を落とし、だけど今度はすぐに離した。

「あ・・」

「おやすみ、カガリ」

微笑んで、アスランは身体を起こし、今度こそカガリの部屋を退出した。



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