藍色の秘密





「お断りします・・・」

緊迫した空気のなか、アレックスは呻くように言った。

「何故だね?」

「私には国を動かすなど、そのような大それたことは、できません。そのような器では・・ないのです」

喉から絞り出すように、言葉を紡ぐアレックスを、デュランダルは静かな眼差しで見据えていた。

「君は力を手に入れたいとは思わないのかね」

「誰かを傷つける力など、いりません。守りたいものを守る力があれば、私はそれで満足です」

半分本当で、半分は嘘だった。
本当は、欲しいものを手に入れる力が欲しかった。
だけど、それで大切な人を傷つけることは、絶対にしたくなかった。
ともすればデュランダルの言葉に頷いてしまいそうになる自分を、アレックスは必死に律した。

(カガリ様・・)

初めて会ったあの日から、アレックスにとってカガリは、生きる希望だった。
ほんの短い間だったけれど、カガリと過ごした時間は、全てを諦めたアレックスを生の世界に引き戻した。
あの少女が、カガリがアスハの姫だと知ったのは、それからすぐ後のことだ。
それでも、もう一度会いたいと思う気持ちは止められなかった。
会うだけでいい。
邪な思いなどは、決して持たないからと。

(そうだ・・。ずっとそうしてきたんだ、俺は・・。これからだって、きっとそうやっていけるはずだ)

アレックスは何度も自分に言い聞かせた。

(アスラン王子とのことだって、自分は祝福できるはずだ)

じっと自分を見据えているデュランダルに、自分の迷い、揺れを見せてはいけない。
アレックスは背中に汗をかきながらも、毅然とした目でデュランダルに対峙した。

(それにしても・・この男、とんでもなく危険な男だ)

初めて会ったときから、読めない男だと思っていたが、まさかここまでとは。
政治の裏側を見てきたアレックスは、それがどんなに闇に覆われた世界かよく知っている。
裏の裏を読み、策略を巡らていけば、やがてそれは自分自身に返ってくるということも。
そうやって身を滅ぼした人間を、アレックスは何人も見てきた。
デュランダルが語った野望は、アレックスが知っているどの陰謀よりも大きく危険なものだった。
身を投じたなら、自らもただではすまされない。
そんな気がした。
しかし、とてつもなく魅力的で甘い囁言でもあるのも、また事実だった。

「そうか・・残念だよ」

デュランダルは、動揺しながらも一歩も引かないアレックスから目を逸らすと、軽く息を吐いた。

「しかし、気が変わったならいつでも私のところに来てくれないかな。期限はプラント使節団がオーブに滞在しているまで。その間、私は君をずっと待っているよ」

「そんなことは、あり得ません・・」

ガタンと音を立ててアレックスは立ち上がった。
足に力が入らず、ともすれば、よろめいてしまいそうになったが、気丈に体勢を保った。

「今夜、私とあなたは何も話をしていない。お会いしてもいない。そういうことに致します」

アレックスの言葉に、デュランダルは唇の端を上げた。

「かたくなだね。だが、いいさ。君はきっと私のもとに来る」

アレックスはデュランダルを睨み付け、しかし何も言わずに頭を下げると、部屋を退出した。
それから、やっとの思いで私室にたどり着くと、アレックスはドアに背を預けたまま、ずるずると座り込んだ。
疲労した精神は肉体を蝕み、ひどく疲れていた。
あと数時間もすれば、朝が来る。
様々な想いが交錯した夜が明けるのだった。













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