藍色の秘密



色白の肌に濃紺の髪と翡翠色の瞳が映える人形のように綺麗な少年だった。
しかし人形めいているのはその整った容姿だけのせいではなかった。
少年の深い翡翠色の瞳は輝きがなく、まるで生気が感じられなかった。

「子供一人であんなところ歩いたら危ないだろっ」

カガリと少年は同い年くらいに見えたが、この少年があまりにも頼りないので、カガリは年長者ぶった。

「おい、聞いてるのか?!私がこなかったらどうなってたか分かってるのかよ」

少年は無表情のまま、まるでほっといてくれと言わんばかりに、カガリから顔を逸らした。
しかしそれが逆にカガリのお節介魂に火をつけた。

「もうっ!お前何で何にも言わないんだよっ!ちょっと来い」

再び少年の手を取り屋台へと歩き出す。
少年は迷惑そうに手を振りほどこうとしたが、強く掴まれているので少し腕を振ったくらいでは、カガリの手は離れない。
力任せに振り払ってもよいのだが、何だかそれも面倒くさくて、結局カガリに従った。
少年はもう全てが面倒くさかったのだ。
言い換えれば、全てを諦めていた。

「おじさん、ドネルケバブ二つ!」

「おや、可愛いお嬢ちゃんだね。お使いかい?うんとサービスしてやるからね」

気風の良さそうな売主からケバブを二つ受け取って、先ほどの公園にあった噴水の淵に座ると、カガリは片方を笑顔とともに少年に差し出した。

「これやるよっ!美味しいんだからな」

少年は静かに首を振る。

「いいから食べろって!」

それでも怯むことなく、カガリは無理やり少年に受け取らせる。
少年は戸惑ったようにケバブを見つめた。
顏と態度には出さないが、本当は2日間食事を取っておらず、空腹は限界にきていたのだ。
香ばしい肉の香りと赤いソースに誘われ、おずおずとケバブに口をつけた。
その様子をカガリは大きな琥珀の瞳で見つめる。

「美味しいか?」

少年が咀嚼したのを見届けて尋ねると、彼はゆっくりと頷いた。

「だろっ?私の大好物なんだ」

カガリは満面の笑みを少年に向けて、次いで自分もケバブにかぶりつく。

「うまーいっ!マーナはお行儀が悪いからそんなもの食べちゃダメって言うけど。あ、でもお小遣いがなくなっちゃったぞ」

少年は返事どころか相槌すらしなかったが、少女は気にすることなくケバブを口にしながら喋り続ける。
明るい日差しの下、緑に囲まれた公園で、少女と少年は午後のひと時を共にした。





「お前、家はどこだ?」

ケバブを平らげると、カガリは再び彼に話しかけた。
同じ食事を口にして、何となく少年との間の壁が薄くなったような気がしたのだ。
そんなカガリの期待通り、彼は初めて口を開いた。

「帰る家なんてない」

暗く、どこか投げやりな口調だった。
カガリは驚いて目を見張ったが、すぐに少年の両手を掴んだ。

「私もだっ!」

「えっ・・?」

「私も家には絶対帰らないぞっ!お父様が約束を破ったこと、本当に怒っているんだからな!」

「きみ・・」

「二人でいれば怖くないだろっ!」

カガリは絡めた指に力を込めて、嬉しそうに笑った。
















君の手の温かさは、今でもよく覚えている。



きらきら輝く蜂蜜色の瞳も。
コロコロ変わる表情も。
子供っぽくて危なっかしいのに、お姉さんぶって世話をやこうとするお節介なところも。


ずっとずっと、変わらぬ温かさで俺の心を灯してくれた。


その温かさで、俺は今まで生きてこれたんだ。










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