藍色の秘密




ゆったりとした物腰なのに、どこか相手を威圧するような雰囲気は、さすが大国プラントの宰相というべきなのだろうか。

「すまないね。こんな時間に」

「いえ・・」

デュランダルと向かいあうように、アレックスは椅子に腰かけていた。
話がしたいと言われ、結局デュランダルが寝泊まりする客室にやってきたのだった。

(それにしても・・)

正面に座る男の真意が全く分からなかった。
何故大国プラントの宰相が、何の身分もない自分に話があるというのか。
デュランダルはそんなアレックスの心の内を見透かしているかのように、一呼吸置いてから、アレックスに話しかけた。

「一足先にオーブに着いたアスラン王子には、もう会ったかな」

「お顔は拝見しましたが・・」

「どう思ったかな、我がプラントの王子について」

「お話に聞く通り、聡明でお優く、プラントを更なる発展へ導いていけるお方だと」

「そうか」

アレックスの言葉に、デュランダルは満足そうに頷くと、窓の向こうに見える月を眺めながら言った。

「王子は・・今頃、カガリ姫に求婚しているのかな」

デュランダルの言葉に、アレックスは息を止めた。
まるで心臓を鷲掴みにされたような衝撃が走る。
デュランダルは硬直したアレックスに気が付いていないのか、滑らかに言葉を続けた。

「今回の使節団の目的は、カガリ姫への求婚でね。アスラン王子がザフトから戻られたらすぐにオーブに出立する予定だったのだが、王子はわずかな時間でも待てなかったらしい。一人で先にオーブに向かってしまわれて」

(求・・婚)

ある程度は、予想をしていたことだった。
婚姻という形で、プラントとオーブの関係はより一層強固なものになる。
それは双方に大きな利益をもたらすことになるのだ。
加えて、アスランはカガリを心から愛している。
政治的にも、心情的にも、二人が婚姻を結ぶのは、自然なことだった。

「キサカ殿もアスハの意向として、既に書簡で承諾して下さっている。あとはカガリ姫お言葉のみだ」

(分かっていた。分かっていた・・ことじゃないか・・)

アレックスは拳を握りしめ、内から湧き上がる衝動を抑え込み、落ち着いた声で言った。

「それは、素晴らしいことです。私がお仕えするカガリ様は、常に民のことに気を配る心優しいお方。アスラン様とはよい夫婦となり、プラントとオーブの架け橋に必ずやなられるでしょう」

「プラントとオーブの架け橋・・ね」

何か含みのある言い方で、デュランダルはアレックスを見た。

「君は今、プラントの急激な人口増加によって、プラント議会が二手に分かれているのを知っているかな?」

「いえ・・」

初耳だった。
護衛としての職業柄、アレックスは近隣諸国の動向に絶えず気を配っているが、今の話は全く知らなかった。
情報に精通している自分が知らないということは、機密事項なのではないのだろうか。

(それを、何故俺に・・・プラントに嫁ぐカガリ様の身が危ないといことか?)

デュランダルの目的が分からず、アレックスは眉間を寄せた。

「そうか。だが、知らなくても当然のことだ。これは機密事項だからね。ところで・・」

デュランダルは一旦言葉を切ると、アレックスを見つめた。

「君のことを調べさせてもらったよ。アレックス君」

「え?」

「17年前の11月2日、オーブの地方の村、マラケシュの孤児院の前で捨てられているところを、孤児院の職員に発見される」

突然デュランダルが語りだした自らの生い立ちに、アレックスはびくりと身を震わせた。

「以後孤児院で過ごすことになるが、内向的な性格の為孤児院になじむことができず、他の児童から暴力を振るわれること多々あり。八歳のときに娼館を経営する男に買い取られ、やがてロゴスの幹部ラファエルに身請けされるが、十一歳のときにロゴスの内部闘争のなか脱走。その後アメノミハシラまでたどり着き、伝説の剣士ムウ・ラ・フラガに素質を見いだされ、弟子となる。三年間彼の元で学んだあと・・」

「辞めてくださいっ!!」

悲鳴のような叫びをあげ、アレックスは思わず立ち上がった。
聞きたくなかった。
デュランダルが語った己の過去は、アレックスにとって忌むべきものだった。
たった一つの思い出を除いて。

「何故こんなことをっ!あなたは先ほどから、私に何を言いたいのですか?!」

「いや・・すまない。悪かったね、アレックス君。どうか落ち着いてくれ」

デュランダルは謝罪をすると、睨み付けているアレックスを座るように促した。
アレックスはしばらくデュランダルを睨み付けていたが、諦めたように腰を下ろした。
相手はプラントの要人だ。
例え何があっても無礼を働いてはいけない。
腸は煮えくりながらも、己を律するアレックスを見据えながら、デュランダルは言った。

「私はただ、君の両親を、教えてあげようと思ってね」

「え・・」

顔を上げたアレックスに、デュランダルは悠然とした笑みを向けた。

「知りたいんだろう、アレックス・ディノ君。なら教えてあげよう」

「あ・・」

「君の父親はプラント国王パトリック・ザラ。母親はプラント王妃、レノア・ザラ」

デュランダルの言葉に、アレックスは息を止めた。

「君は、アスラン王子の双子の兄で、プラントの第一王位継承者だ」





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