藍色の秘密
カガリの琥珀色の瞳が見開かれた。
その瞳のなかにあるのは、純粋な驚きだった。
硬直するカガリを見つめながら、アスランは言葉を紡いだ。
「一般的に俺たちの婚姻は、富める国オーブと強国プラントの関係を強固にする、政略結婚にということになるだろう」
カガリは息を詰めて、アスランの話を聞いている。
「だけど俺は、君がアスハの姫でなくとも、俺がプラントの王子でなくとも、今のように君を愛していたと断言できる」
「アス・・ラン」
「だから俺は、プラントの皇太子としてではなく、ただの一個人のアスラン・ザラとして、アスハの当主としてでの君ではなく、ただのカガリに言うよ。そのために一人で先に馬を駆ってオーブに来たんだ」
アスランは優しく微笑むと、真剣な顔をして、カガリに告げた。
「カガリ、俺と結婚してくれないだろうか」
アスランの言葉に、カガリは初め呆然としていたが、二、三度瞬きして、やっと事態を飲み込めた。
彼が自分に求婚しているのだと。
「アスラン・・これって・・本当に・・?」
「ずっと、初めてカガリに会ったあの日から、俺はカガリに惹かれていたよ」
カガリは全然気が付いていなかったみたいだけど・・と言って、アスランがくすりと笑った。
「・・・」
アスランの言葉通りだった。
カガリはアスランの気持ちに全く気が付いていなかった。
(アスランが、私を・・)
そう思うと、頬がかあっと熱くなって、鼓動が早まる。
目の前には、穏やかで、だけど真剣なアスランの顔があって、何も考えられなくなってしまう。
だけど、一つだけ確かな思いがあった。
思えば、アスランは昔から優しかった。
そして、今自分に注がれている真摯な眼差し。
それに応えたいと、純粋に思った。
「危なっかしいかもしれないけど、俺は君を守りたい」
一生、とアスランは付け加えた。
(何だよ・・さっきまでは・・)
今のアスランは、先ほどの暗い顔をしていたアスランとは別人のようだった。
でも確かに、何でも一人で抱え込み、自分を追い込んでしまうアスランも、ここにいるのだ。
そんなアスランを守りたいと、カガリは思った。
即ちそれは、アスランと生を共にしていくということで、それがカガリの答えだった。
「うん・・アスラン・・」
「カガリ・・」
喉から出たのは、小さな掠れた声だったが、確かにアスランの耳に届いて、アスランは息を止めた。
そしてゆっくりと、確かめるように、俯いたカガリの顔を覗き込む。
「カガリ・・今の・・」
「すごく恥ずかしいんだ!二回も言わせるな」
カガリの顔はびっくりするくらい真っ赤になっていた。
「ごめん」
アスランはカガリを抱きしめた。
嬉しくて嬉しくて、眩暈がしそうだった。
おずおずと自らの背中にカガリの腕が回されて、涙が出そうになる。
しばらく、抱きしめたって、互いの感触を確かめて。
「本当はさっき中庭で、言うつもりだった・・」
アスランはそう囁くと、そっと身体を引いた。
「あ・・」
離れていく身体と体温が名残惜しくて、アスランを見上げるカガリはどこか切なげだった。
その潤んだ琥珀色の瞳が、カガリの想いを表しているようで、自分だけが一方通行の想いを抱いているのではないとアスランに自信を与えてくれる。
アスランは内ポケットから小さな四角い箱を取り出すと、その蓋を開けた。
「これ・・はめてもいいか?」
「えっ・・お前こんなもの、いつの間に」
中に入っているのは、紅い指輪だった。
「俺が選んだ。はめてもいいか?」
早く指輪をカガリの指に通したくて、アスランはカガリの質問を聞き流し、再び急かすように訪ねた。
「うん・・」
アスランの勢いに押される形でカガリは頷き、アスランはその細い指に、指輪をくぐらせた。
部屋の明かりに紅い石が煌めいて。
カガリは今まで装飾品が好きではなかった。
邪魔なだけだと思っていたけれど。
この指輪はアスラン自身が選んだと言っていた。
アスランだって、女性の装飾品には詳しくないはずだ。
そんな彼が、一生懸命自分の為に選んでくれたのだと思うと、指輪からアスランの想いが溢れ出る気がして。
「アスラン・・ありがとう・・その、嬉しい・・」
「カガリ・・」
顔を真っ赤にしながら、それでも嬉しそうに微笑むカガリに、胸の奥から愛しさがこみ上げてくる。
もう、止められないと思った。
本能に従うまま、アスランは再びカガリを引き寄せると、ゆっくりと唇を近づけた。
アスランのしようとしていることを悟ったカガリが、ゆっくりと目を閉じて、二人の唇が重なった。
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