藍色の秘密








軽やかな音楽が流れるなか、二年ぶりに目にするアスランの姿に、アスハ邸の人々は彼の成長を感じていた。
以前の彼は思春期の少年らしく、背は高いのに首と肩は細くて、ひょろりとした細い棒のような華奢な印象を与えていた。
しかし、今の彼は背も更ににび、同時に肩幅や首も一回り大きくなって、まさに少年から青年へと変わろうとしていた。

「アスラン、一曲だけでいい」

誕生パーティーが始まって、ダンスの時間になったのだが、カガリは初めの一曲が終わると、ピタリと足を止めた。

「折角カガリの誕生パーティーを開いてもらっているんだ。もう一曲くらいは踊ったほうがいいんじゃなのか」

「いい。内輪だけの会なんだ。気を使う必要はない」

確かにカガリの言うとおり、今日の誕生パーティーはアスハ邸内での応接間を使った内輪だけの小さな催しだ。
参加者もアスハ家の身内や、親しい友人たちはもちろん、アスハ邸で働く召使たちも参加を許されていて、カガリも気取る必要がなく、楽しそうだった。

「アスラン王子!お久しぶりです!ザフトから戻られたんですねー!」

ダンスフロアから立食テーブルに移り、オードブルを手にしたアスランの背後から、大きな声があがった。
この騒がしさ、もとい賑やかさをアスランはよく覚えていた。
懐かしさと、同時に少し気が重くなる。

「わあ!本当にアスラン王子だ!」

「二年ぶりですね!どうでしたかっ?ザフトは」

思ったとおり、振り返るとカガリ付の三人の召使が、瞳を輝かせてこちらを見ていて、アスランは苦笑した。
この三人の召使は、幼いときからカガリの傍にいて、必然的に顔をあわせる機会が多かったのだが、そのたびにアスランは三人の騒がしさと勢いに圧倒されてしまうのだった。

「ザフトは無事に卒業できたよ」

「すごーい!さすがアスラン王子ですね」

三人娘はアスランの返事に歓声を上げた。

「二年の間にますます素敵になりましたね!」

「え?」

あからさまなアサギの言葉に、アスランは目を丸くした。

「カガリ様なんて、この二年なーんにも変わりなしですよ」

「少しも女らしくなってませんから」

「何だと、おまえら!」

悪びれもなく暴言を吐くマユラとジュリを、カガリは前屈みになって睨み付けた。

「本当のことじゃないですか。アスラン王子のためにも、事実をお話ししなきゃ」

カガリは軽くマユラを睨み付けると、舌戦を諦めたのだろう、軽くため息をついて、話題を変えた。

「それよりアレックスは?あいつパーティーに来てないし、どこに行ったんだよ」

結局、今日のパーティーでのカガリのエスコート役はアスランが務めることになった。
そのいきさつをカガリは知ることもなかったし、プラントの王子であるアスランが、内輪とはいえパーティーに出席するのなら、アスランがカガリをエスコートするのは当然の流れだったので、特に気にもしなかった。

「アレックス殿は、厩舎にいらっしゃるみたいですよ」

「そんなこと、いつでもできるじゃないか。何でわざわざパーティーの時間に馬の世話なんて」

ジュリの言葉に、カガリは不機嫌そうに顔を歪めた。

「私にはパーティーでの付き合いがいかに大事が説教するくせに、自分は出席しないなんて」

不満そうなカガリを見つめながら、アスランは心のなかで冷笑を浮かべていた。

(馬の世話・・アイツには、それがふさわしい)

自分たちがパーティーを楽しんでいるときに、アレックスは馬の世話をしているという事実が、どうしようもなく心地よかった。
ただの護衛のくせに、カガリのエスコート役なんて、厚かましいにも程がある。
しっかりと自分の身の丈を分かってもらわなければ困るのだ。

(大体・・何で俺が・・)

アスランは自分の苛立ちの原因を知っている。
嫉妬だ。
自分はアレックスへ嫉妬しているのだ。
プラントの皇太子である自分が、どうしてただの護衛なんかに嫉妬しなければならないのか。
それがどうしようもなく腹立たしい。

(くそっ)

アスランは小さくかぶりを振って、心の内にある黒いモヤモヤを拡散させた。
今日はこのあと、一大イベントがあるのだ。
自分にとっても、おそらくカガリにとっても。
ずっとずっとこの日を夢見て、準備していたことだ。
それなのに護衛なんかに嫉妬して、醜い心のまま、そのときを迎えたくない。

「アスラン、どうしたんだ?」

どこか様子のおかしいアスランが気になったのだろう。
気が付くと、目の前にカガリの顔があって、アスランは赤面した。

「えっ・・あ・・いや」

慌てふためくアスランを、不思議そうに見つめていたカガリだったが。

「お前相変わらず、どっか抜けてるな」

そう言って小さく噴き出すとケラケラと笑い出した。

「そうか?」

アスランはカガリに笑われて眉間に皺を寄せたが、可笑しそうに笑うカガリを見ていると、何だか自分も楽しくなってきてしまって、つられて笑ってしまった。







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