藍色の秘密





「アスラン!一体いつ帰ってきたんだ?いきなり現れるんだから、びっくりしたぞ」

アレックスが立ち去った後、その場に残っていたきまずい空気を払しょくするように、カガリが明るく問いかけた。

「ああ・・一週間前に城に戻ってから仕事を片付けて、予定より早くオーブに向かったから」

アスランも、今しがたの出来事を忘れるように、努めて穏やかに答えた。

「何でそんな・・」

「だって明日はカガリの誕生日だろう」

「え・・」

アスランの言うとおり、明日はカガリの18回目の誕生日だった。

「直接おめでとうが言いたくて。明日の誕生日パーティーには俺も出席する。アスハ邸の内輪のパーティーだけど、いいだろう?」

「あ・・ああ・・それは別にかまわないけど」

そんなことの為だけに、一人で馬を駆ってオーブに来るなんて。

(変な奴だ・・やっぱり。変わってない・・)

昔と変わらない、優秀だけどどこか抜けたとことがあるアスランに、カガリは嬉しくなって、会えなかった二年間のことを尋ねた。

「ザフトはどうだった?お前、ちゃんとやっていけたのかよ」

「ああ・・一応卒業できたから、何とかなっていたと思う」

主席でとは言わなかった。
それは謙虚さから来ているのではなく、アスランはもともとあまり評価を気にしない性質なのだ。
自分がさして興味のないことを、他人に言う必要はない。

「全く。心配していたんだぞ」

ちょっと怒ったようにカガリがアスランを軽く睨み付けた。

「お前、進んで人と関わらないし、危なっかしい奴だから・・」

「カガリ・・」

カガリの言葉に、アスランは嬉しさで、胸がきゅっと締め付けられたように感じた。
彼女が自分を気にかけてくれると思うと、こんなにも嬉しい。
先ほどのアレックスへの苦い思いはあっという間に薄れていって、代わりに温かいカガリへの想いがアスランの心に満ちていった。

「心配かけていたんだ。ごめん。それより、カガリは二年間どうしてた?」

そこまで言って、アスランはカガリの父の訃報を思い出し、眉根を下げた。

「あの、ウズミさんがあんなことになって・・大丈夫だったか?」

ウズミの急逝はザフトでも大きなニュースになった。
突然の訃報に先輩や友人たちが騒ぐ中、アスランはカガリのことを思うと、いてもたってもいられなかった。
父親っこだったカガリは、どれほどショックを受けているだろう。
どんなに傍にいてやりたいと思ったか。
昔、レノアが亡くなったときに、カガリが自分を慰めてくれたように。

「ああ・・お父様のことは、本当に辛くて、しばらくは信じられなかった」

労わる様なアスランの言葉に、カガリは俯いて答えたが、だけど・・と顔を上げ、見とれるほど美しい笑顔で言った。

「だけど、アレックスが傍にいてくれたおかげで、私はお父様の死を乗り越えることができたんだ」

カガリの言葉と眩しい笑顔に、アスランは心臓が止まるほどの衝撃を受けた。
アレックス・・。
確か先ほどの護衛の名だ。
ほんのりと優しい暖かさに満ちていた心に、瞬時にどす黒い感情が湧き上がり、渦をまいた。
自分以外の男がカガリを支えるなど、あってはならないことだった。
そんな笑顔で、自分以外の男の名前を呼んで欲しくなかった。

「あ、アレックスって、さっきの護衛だ。二年前にアスハ邸に来たんだ」

固まったアスランに、アレックスが誰だか認識していないと思ったのだろう、カガリが取り繕うに言った。

「びっくりするくらい、お前にそっくりだろう。性格は少し違うけど。アレックスのほうが大人っぽいというか」

「アレックスと、随分親しいみたいだな」

胸の内を隠しながら、アスランは笑顔で言ったけど、その美しい緑色の目は全く笑っていなかった。

「ああ。アレックスとはいつも一緒だし、政治のこととか色々アドバイス貰ってる」

「そう、なのか・・」

アスランの心情など知りもせず、カガリは嬉しそうに答えて、やがて思いついたように言った。

「アスランもアレックスと仲良くなればいい。そうしたら三人でいられるだろう」

「え・・」

「アレックスは凄いんだぞ。剣の腕は大したものだし、物知りだし、礼儀作法とか、私より完璧だし。お前とも仲良くなれると思うんだ」

「そう…かな」

自慢げにアレックスの話をするカガリに、アスランは息苦しさを覚えながらも、努めて穏やかに答えるが、そろそろ限界だった。
早くカガリから離れたい。
もう聞きたくない。
そう思ったけれど、身体が固まったように動かなくて、そんなアスランに、カガリは追い討ちをかけた。

「ダンスも上手いんだぞ。明日の誕生パーティーでは、アレックスが私のエスコート役なんだ」









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