藍色の秘密
キンと刃がぶつかり合う鋭い音がして、白く輝く白銀の刃が宙に舞い、地面に突き刺さった。
「そこまで!」
審判の声がしたと同時に、見守っていた生徒たちから、ワッと大きな歓声があがる。
「すげ~よ、アスラン!剣でも一位じゃん!」
「ぶっちぎりの首席卒業だな」
輪の中央にいた二人のうちの片方、アスランに友人達が駆け寄って、わしゃわしゃと頭を撫でたり、背中を叩いたりして、彼の勝利を祝福した。
「ありがとう・・って、やめろ・・ラスティ。ミゲルも。うわっ・・」
アスランは身を捩って、祝福から逃れようとするも、上手くいかない。
明らかに主役であるアスランよりも、友人達の方が興奮していた。
対してもう片方の、先ほどまで輪の中央で他の生徒たちの注目を浴びていたイザークは、唇を噛み締め、拳を握りしめ、目の前でもみくちゃにされるアスランを睨み付けていた。
「元気だせよ、イザーク。ほら」
振り向くと、後方に弾き飛ばされたイザークの剣を、ディアッカが差し出していた。
「いい試合だったんだからさ。まあ主席はアイツだけど、次席でも充分すげーよ」
「うるさーい!!!」
イザークはディアッカから剣をひったくった。
その甲高い声に、アスランにたかっていた生徒たちが、思い出したようにイザークの方を見、一斉にからかい出した。
「万年二位だな、イザーク」
「アスランには適わないんだよ。諦めろ」
「うるさーーーいっ!!」
イザークは再び同じ台詞を叫ぶと、ビシリとアスランを指刺し。
「調子に乗るなよっアスラン!!いつかっ・・いつか必ず・・!覚えてろよ!!」
一気にそう捲し立てると、くるりと踵を返し、走り去っていった。
「ちょっ・・待てよ、イザーク!」
面倒見のいいディアッカが後を追う。
その光景を、他の生徒たちは爆笑しながら見ていたが。
「あの・・二コル」
「何ですか?アスラン」
「どうしてイザークはあんなに怒っているんだ?」
綺麗な翡翠の瞳をぱちくりさせるアスランに、二コルは苦笑した。
「アスランは気にしなくていいですよ。だけどイザークには、直接聞いちゃダメですよ」
ザフトに入隊して二年。
剣、弓、馬術、体術等の卒業試験を、アスランは総合一位で合格した。
弓の試験の日は熱を出して、惜しくもイザークに負けて二位だったが、プラントの皇太子として、文句無しの素晴らしい成績だった。
しかしアスランにとって、ザフトでの成績はさほど重要視するものではなかった。
もちろんプラントの王子として、あまり情けない成績では困るのだけれども、それよりもザフトを卒業できることの方が嬉しかった。
「でもこれで、俺たちも卒業か。アスラン、良かったな」
「え?」
アスランの心中を読んだ様なラスティの言葉に、アスランは小さく動揺した。
「オーブのカガリ姫にやっと会えるじゃないか」
「あ・・ああ・・」
その通りだった。
ザフトに入隊すると、宿舎を出るのは年に二度の帰省でしか許されず、帰省しても国外に出るのは禁止されていた。
二年間カガリに会うことはできなかったが、これは試練なのだと己を律し、アスランは淡々とザフトでの訓練に励んでいたが。
「ここ最近ずっとソワソワしてたもんな」
「そんなことは・・」
「あるっての!」
明るい笑い声が訓練場に響く。
(気付かれていたか・・)
アスランは目ざとく鋭い友人たちに苦笑した。
確かに卒業をまじかに控えたここ数日は、はやる気持ちを押さえられていなかったかもしれない。
もう少しすれば、カガリに会えると思うと、どうしたって気持ちは浮きだって落ち着かなくなってしまう。
(そして・・その時は)
しかし、この気分の高揚の源は、カガリと再会できるからということだけではなかった、
昨年から、父やプラントの家臣たちと、書簡でやり取りしていたこと。
それが数日前、やっとその全てが終わったのだった。
アスランは少しの感慨と、逸る期待を胸に、ザフトの士官学校を卒業した。
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