藍色の秘密




アサギから口にされた名前。
アスラン。
アスラン・ザラ。
オーブに住んでいて、その名前を知らない者はいなかった。
強国プラントの王、パトリックの一人息子で、生まれたときからすべてを約束された皇太子。

「ザフトに入隊されてから、もう二年だもんね」

「その前はしょっちゅうオーブに来てたから、最初は何だかすごく寂しかったけど」

マユラがアレックスの顔をまじまじ見ながら言った。

「アレックス殿が来てから、そんなこともなくなったな」

「うん!最初はアレックス殿がアスラン様にそっくりって感じだったけど、今は逆かも」

「そんなに似ていますか?私とアスラン王子は」

アレックスが尋ねると、三人娘は勢いよく頷いた。

(そういえば、カガリ様も初め、俺をアスラン王子だと信じて疑わなかったな)

護衛として初めて、カガリに挨拶に行った日を思い出す。
大きな目を更に真ん丸にしていたカガリ。

「そっくりですよ。髪も瞳の色も、顔立ちも。身長も同じくらいだし・・声だって!」

プラントとオーブは友好国であるが、アレックスはアスランを直接目にしたことがなかった。
アメノミハシラの平民だったアレックスに、プラントの王子を拝顔する機会などはあるはずもないし、アレックスがカガリの護衛の任についたのは、ちょうどアスランがザフトに入隊したのと入れ違いだった。
その為アスランの人となりは噂や評判でしか得ることはできなかったが、アレックスの知る限りそれはどれも好意的なものだった。

(武芸にも学問にも秀でたお優しいお方だと聞く・・)

「でもアレックス殿のほうが大人っぽいかなあ・・」

「雰囲気もアレックス殿のほうが落ち着いてる感じ」

三人娘はアレックスをじっくりと見ながら、記憶の中のアスランと比べているようだった。

「私はアスラン王子よりも三つ年上ですから」

「まあ、そうですけど・・」

(本当は同い年なんだけど・・)

言いながら、アレックスは心のなかで苦笑した。
客に信頼を得る為に年齢を上に誤魔化すのは、若い傭兵にとって日常茶飯事のことだった。

「でもアスラン様、ザフトを卒業したら絶対真っ先にオーブに来るよね」

「だろうね。全く・・あんな素敵な王子が、どうしてうちのじゃじゃ馬姫様なんかのこと・・」

「ちょっとジュリ酷い!」

明るい笑い声が響いたが、アレックスは今の言葉に身体を強張らせた。

「あれ?アレックス殿・・もしかして知りませんでした?」

「オーブじゃあ有名な話ですよ。アスラン様の想い人がカガリ様だって」

「そう・・なんですか」

普通の声を出そうと思ったのに、喉から出てきた声は少し掠れていた。
それを驚愕だと思ったらしい三人娘は、アレックスに同意を示すように頷いた。

「びっくりですよねえ。あの姫様のどこに惚れたのか、私たちもイマイチよく分からないんですけど」

「でもすぐ分かりますよ。アスラン様がカガリ様のことが好きって。表情が他の人といるときと、まるで違いますもん」

「まあ何だかんだ立場的にもお似合いですけど」

「私はお転婆なカガリ様にはアレックス殿の方がいいと思いますけど、結局はただの護衛と姫じゃ無理な話ですもんね。あ、その前に相手がカガリ様じゃ、アレックス殿の方がお断りかあ」

「そうよ、アレックス殿にだって選ぶ権利はあるんだから」

おどけたようにマユラが言って、三人娘がケラケラと笑うのを、アレックスはじっと眺めていたが。

「で、話をもとに戻して。アレックス殿って好きな人いないんですか?」

好奇心いっぱいで聞いてきた三人娘に、アレックスは穏やかに、でもはっきりと答えた。

「そんな方は、いませんよ」










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