藍色の秘密





カガリとアレックスが市街地にいたころ、サハク邸の応接間ではウズミと、アメノミハシラを治めるコトー・サハクが会談を行っていた。
会談といっても気心の知れた二人である。
何点か重要な話をしてしまえば、あとは雑談を含んだ砕けた会話になる。
従者も護衛もつけず、二人だけで内輪な話をしているなかで、サハク家当主のコトーが思い出したように言った。

「そういえば、アメノミハシラ一の剣の使い手と名高いアレックス・ディノが、カガリちゃんの護衛になったんだってね」

コトーが出した名前に、ウズミはわずかに目を伏せる。

「いやあ、よく引き受けてもらえたね。羨ましいよ。実は私も何度か彼にうちの騎士団に入らないかと打診したんだが、全部断られてね。ついでにミナとギナ護衛もね」

苦笑しながら話すコトーだったが、ウズミが浮かない顔をしているのに気が付いた。

「どうかしたのか」

「彼のことなのだが・・実は解任しようと思っていてな」

ウズミの言葉にコトーが若干大げさに目を見開いた。

「一体何故。彼ほど優秀な傭兵はいないぞ」

「それは分かっておる。解任するのも、彼のせいではなく、儂の漠然とした不安からだ」

「不安?」

「何か嫌な予感がするのだ。彼を護衛にしておくと、恐ろしいことが起きると」

深刻そうな声で、ウズミは旧友に胸の内を打ち明けた。

「お前、案外迷信深いんだな」

しかしコトーはそんなウズミを一蹴すると、説得するように言った。

「アレックスは剣の腕だけではない。卓越した精神に裏付けられた穏やかで誠実な人柄も高く評価されている。しかしあのような強靭な精神は、人間の綺麗な部分しか知らないような者が持てるはずはない。もっと闇を知っている者でないとな。想像を絶するような酷い生き方をしながら、腐らず折れずに乗り越えた者だけが持てる強さを彼は持っている」

コトーの言葉にウズミは黙り込んだ。
確かにアレックスの内面の強さはウズミも認めるところだった。
あの若さで世の中の光も闇も知りつくし、その両方に飲み込まれずに、ちゃんと自分の足で立っているアレックスの強さはウズミを唸らせるものだ。
手放すのは確かに惜しい。

「そうだな・・もう一度よく考えておこう」

「それがいい。それよりもおぬし、最近ずっと顔色が悪いぞ。ちゃんと休んでいるのか?カガリちゃんも難しい年頃で悩みもあるかもしれないが、ちゃんと休めよ」

笑いながら、コトーはウズミの背中を叩いた。
しかし、さすが旧友と言うべきか、彼の言葉は当たっていた。
ウズミはその夜から体調を崩し急ぎオーブへ帰国したのだが、その三日後帰らぬ人になった。
オーブの発展と平和に尽力を尽くしたアスハ当主のあまりにもあっけない死であった。









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