藍色の秘密
もう一度、会いたかった。
会っては駄目だと何度も自分に言い聞かせたけれど、心の底から湧き上がる欲求にどうしても逆らうことはできなかった。
俺がどんな気持ちで扉の前に立ったかなんて、君には分からないだろう。
濃紺の髪に翡翠色の瞳をした少年は、息をとめて自分を見つめる主人に深々と頭を下げた。
「お初にお目にかかります。本日より姫君の護衛を仰せつかったアレックス・ディノと申します」
「アレックス・・ディノ・・?」
少年、アレックスの自己紹介に、カガリが息を吐くようにつぶやいた。
そうすると驚きのあまり動かなかった身体に力が戻ってきて、止まっていた時間が流れ出す。
「アレックスって・・お前、アスランだろう。他人のふりまでして抜け出すくらい、ザフトが嫌だったのか?」
顔を上げると、目の前には心配そうに自分を見つめてくる姫君の顔。
アレックスは二、三度まばたきをすると、困ったような笑みを浮かべた言った。
「姫は・・何のことを仰られているのでしょう。ザフトとはプラントの軍のことでしょうか?だとしたら私はプラントには一度も足を踏み入れたことはありませんが」
「やめろよ!そんな喋り方するの。私をからかっているのか?感じ悪いぞ、お前」
かしこまったアレックスの態度が慇懃無礼に感じて、カガリは苛立った。
わざと丁寧な態度と言葉を使ってアスランがふざけているのだと思ったのだ。
アスランがザフトでちゃんとやっていけるのか心配した自分が馬鹿みたいに感じた。
「姫様、何か勘違いしているようですが、彼はアレックス・ディノといってアメノミシハラ出身の傭兵でございますよ」
苛立つカガリにアレックスを部屋まで連れてきた従者が弁明するように言って、その言葉にカガリと同様あまりの衝撃に固まっていたマーナが我に返った。
「あ・・ええ・・そうでございますね。ほら姫様、アレックス殿はアスラン様じゃございません」
「マーナ・・」
「本当によく似てらっしゃいますけど、こうしてよく見ると、アレックス殿のほうが大人っぽくて、実際年齢も・・」
「数えで十八です」
マーナの言葉にアレックスが答えた。
「でも・・」
それでも信じられないというようなカガリに、アレックスは穏やかに言った。
「アスラン・・様というのは、プラントの皇太子であらせられる、アスラン王子のことでしょうか。」
「あ・・ああ」
戸惑うようなカガリの返事にアレックスは頷いた。
「恐れながら、アスラン王子に似ていると何度か人に言われたことがあります。私は王子のお顔を拝見したことはありませんが、姫が間違えるくらい似ているのでしょうか」
カガリは呆然とアレックスを見つめて、やがてポツリと言った。
「本当にアレックスじゃないのか」
目の前の少年がアスランではないなんて、信じられなかった。
けれどカガリの呟きに少年は再び目を伏せて、はっきりと言った。
「私はアレックス・ディノ。姫様の護衛です」
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