まほろば




「キラ、さっきの・・・」

低い丸テーブルの前に座って、アスランは感情を押し殺した尋ねた。
キラの部屋はゲームや雑誌が散乱しており酷い有様だったが、今のアスランには目に入らなかった。
先ほど、玄関で出迎えてくれたのは確かにカガリンだった。
自分が彼女を見間違うことなんて絶対にない。
それにキラも彼女のことをカガリと呼んだ。
絶対に彼女はカガリンなのだが、一体何故こんなところに。
アスランが自ら出向かなければ、彼女に会えることなど夢でなければあり得ないはずなのに。
アスランの動揺に気が付かないキラは、鞄を床に置きながらさらりと答えた。

「さっきのは僕の双子の妹だよ」

「いもうと」

「隠してたわけじゃないけど、色々事情があって別々の家で暮らしてるんだ。けどたまにこうやって数日間家に戻ってくるんだ」

「いもうと」

衝撃にあまりうまく回らない頭で、アスランは状況を一生懸命飲み込んだ。
キラとカガリが兄妹、それも双子。
ひたすらに情熱を傾け、追っかけをしながらも、とても遠い存在だと思っていたカガリンが、まさかこんな身近で繋がっていたなんて。

「カガリさ、可愛いでしょう?」

「え・・・」

キラは片手で頬杖をつき、アスランを見つめた。

「SED48っていうアイドルグループ、前に教室で少し話したでしょ?カガリはそれに所属してて、アスランは知らないと思うけど結構有名なんだよ」

嬉しそうに語るキラから、妹に対する愛情が滲み出ているようだった。
しかし対するアスランは何も返事が出来ない。
言えるはずもなかった。
知っているもなにも、大ファンでCDやDVDはおろか、LIVEや握手会は欠かさず行って出待ちまでしていますなんて。
何も答えられないアスランを、キラは違う方向に解釈したらしく、苦笑した。

「アスランそういうの疎いもんね。まあ、だから君を家に連れてきたんだけどね。他のクラスメイトが知ったら大変だもの。カガリのこと可愛くないとか言ってるくせに、実物みたら絶対興奮して大騒ぎするもん」

話は一区切りついたとばかりにキラは頬杖を解くと、がさがさと鞄から教科書とノートを取り出す。
勉強の姿勢に入るキラとは反対に、アスランは全く状況が整理できていない。
本当にさっきの女の子はカガリンだったのだ。
カガリンが、同じ家にいる、この下にいる。
身体が熱を持ち、動機が激しくなっていくのが分かる。
まるで握手会のときのようだ。
何を言おうとずっと前から考え、頭のなかで何度もシュミレーションしたのにもかかわらず、いざ本人を前にするとすべてが吹き飛んでしまい、頭が真っ白になってしまう。
カガリと同じ空間にいて、平常心ではいられない。
とてもじゃないが、数式など頭に入らない。

「キラ、入るぞ」

ノックの音とともに扉が開くと、トレーを持ったカガリが入ってきた。
アスランの身体がびくりと硬直したが、双子は気が付かなかったようだ。

「コーヒーと、昨日私が持って帰ってきたケーキだぞ」

「有難う、カガリ」

ぺたんと床に膝とつけ、カガリがテーブルの上にお皿とカップを置いてくれる。
その横顔をアスランは息を止めて凝視する。
カガリンが、こんな近くに。

「紹介するよ、クラスメイトのアスラン。一緒に勉強をしようと思って」
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