まほろば



金色の擬宝珠を頂点にした八角形の巨大なホールは今、多くの人でごった返していた。
人混みのほとんどは男性であり、ホールの中は興奮と緊張で異様な熱気に包まれている。

「ザラ氏!もうすぐ開演ですね!」

隣に座るカガ担仲間がアスランの耳元で叫んだ。
大声を出さないと隣に座る人の声も聞こえないほどのざわつきようなのだ。

「ええ、そろそろ入場の時間だと思います」

仲間の耳元でアスランは同じく声を張り上げた。
武道館の席は既に埋まり、あちこちにテレビカメラが設置されている。
今日の様子はSEED局が独占生中継をする予定になっているから、その為のものだろう。
会場を埋め尽くした約一万五千人を、アスランは会場の後ろの席からぐるりと挑むように眺めた。
皆自分の推し面の名前や写真をいれた団扇やタオルを持ち、コンサートのように鉢巻や派手な衣装を身に着けているファンも多い。
泣いても笑っても、総選挙の結果発表の日がきてしまったのだ。
衝撃の中間発表から一週間、やれるだけのことはやった。
あとは信じて結果を待つことしかアスランには出来ない。
きりりと緊張でアスランの下腹部が痛んだと同時に、武道館の照明が落ちた。

―――始まる!!

総選挙開始のアナウンスが入り、爆発音とともに最新のSEDの曲が流れ、色鮮やかな照明に照らされホールにSEDのメンバー達が入場してくる。
最初は研究生、次いで中堅メンバー、そして最後に第一線で活躍している人気メンバーがホールに姿を見せると、武道館が歓声で揺れた。
そのなかで、アスランの視線が一点に集中した。

―――カガリンっ!!

覗き込んだ双眼鏡の先、最終グループのなかに輝く金髪を見つけ、アスランの胸が詰まる。
自分が持てるすべての情熱を捧げる人。
その彼女を果たして自分を喜ばせることができるのか。
結果が聞くのが怖くて堪らないアスランを余所に、ついに結果発表が始まった。
百位から順に発表されていき、呼ばれたメンバーはホールの上の舞台でスピーチをし、順位の書かれた札がついた椅子に座っていく。
多少の番狂わせがあったものの、総選挙の真髄は二十位からだ。
残っているのは知名度のある人気メンバーがほとんどで、ここからがある意味SEDの本当の人気投票といえる。

「第二十位、獲得票数三万二千四百十票、アサギ・コードウェル」

次々に順位が発表されていくのをアスランは身を固くして耐えていた。
手の甲には爪が食い込み、身体中に嫌な汗が滲んでいる。
ここまででカガリはまだ呼ばれていない。
中間では十八位だが、そこからどれだけ票が伸びているか。
もう神に祈るしかない。

「第十七位、獲得票数~三万九千二百三十一票、アビー・ウィンザー」

せめて、メディア選抜の十二位内に入って欲しい。
メディア選抜に入れば優先的にテレビのバラエティーやドラマに出演できるのだ。
人気メンバーとそうでないメンバーのボーダーはこの十二位が基準になるはずだ。
頼む、とアスランは握りしめた手を額にあてた。
極度の緊張で意識が朦朧とするのに、耳だけは異常に敏感になっている。
隣に座るカガ担仲間も両手を合わせ祈っているが、今のアスランにはその様子に気付く余裕は無い。

「第十三位、獲得票数五万三千六百三十八票、マユラ・ラバッツ」

―――きたっ!
全身を縛り付けていた緊張の糸が緩む。
これでカガリのメディア選抜入りは確定だ。
ひとまずの目標をクリアして、アスランは隣の同士と頷き合った。
しかし、一つの山を越えてもすぐにまた更なる山が見えてくる。
ここまできたら少しでもいい順位に、できれば一桁に入ってほしい。
アスランは再び身を固くし、続いて行われていく順位発表を祈るような気持ちで受け止めていく。
そして、ついにそのときはやってきた。

「第六位、七万七千飛んで八十二票、カガリ・ユラ・アスハ」

その瞬間、アスランの視界が一気に白く光った。
中学時代に部活動でプラント制覇したときも、名門ザフト高校を主席で合格したときも、感じることのなかった全身を貫くほどの衝撃を伴った感動。
ドームを沸かす歓声もただ遠く、笑顔で客席に手を振りながら舞台に上がるカガリの姿だけが視界に浮かび上がる。
ああ、緑色のワンピースがすごくよく似合って、なんて可愛いのだろう。

「初めての総選挙、こんなにたくさんの票を頂けてファンの皆様には感謝の気持ちでいっぱいです」

檀上でスピーチをするカガリの姿が誇らしかった。
あれが、あの女の子が、自分が全身全霊で応援するカガリンなのだと大声で叫びたい。
活き活きとファンへの感謝の気持ちを語るカガリの姿が滲んでいて、それで自分が泣いていることにアスランは気が付いた。
カガリを応援してきて良かったと心の底から思える。
どんなときでもカガリの姿を見れば癒され、アスランにとってカガリは日々生活の活力なのだ。
アスランの生活に意味を持たせてくれたカガリに、人気投票という目に見える形で恩返しが出来たことにアスランの胸は震えた。
カガリもこうして喜んでくれて、こんなに嬉しいことはなかった。
新たな感動をまたひとつ、カガリから教わったアスランはこれからもカガリをより一層応援し続けると誓ったのだった。











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