まほろば
アスランが一人むっつり黙っていると、クラスメイトの一人がそばにやってきて、隣の空き椅子に腰を下ろした。
「アスランはSEDでは誰が好きなの?」
「いや、俺はそのSEDとやらをよく知らないから」
「アスランらしいね」
茶髪で紫色の瞳のクラスメイト―――キラはくすりと笑い、アスランは仏頂面になった。
中等部から同じクラスだったキラは、他人と関わるのが苦手なアスランが唯一一緒にいても疲れない相手だ。
しかしそのキラにも、アスランはSED48のファンだということを隠している。
「ザラ君SED知らないの?皆可愛いんだよ」
キラとの会話が聞こえたのか、近くではしゃいでいたクラスメイト達がわっとアスラン達の方に顔を向けた。
逃げる間もなく、目の前にSEDが表紙の雑誌を置かれる。
「ほらっ!この中でザラ君は誰が一番タイプ?」
「・・・」
雑誌を示され言葉を詰まらせるアスランを置いてきぼりにして、クラスメイト達はきゃいきゃいとはしゃぎだす。
「ザラ君のタイプはこれじゃないの?」
そう言って指し示すされたのは、人気メンバーのメイリン・ホークで、同意するようにうんうんと周りが頷く。
「あ~清楚で可愛い感じ」
「こっちの子もいいんじゃない?」
「え~ザラ君こういう子がタイプなの?」
勝手に盛り上がる女子たちに内心うんざりしていたアスランだったが、次の瞬間心臓が跳ねた。
「案外こういう系だったりして」
「―――っ」
思わず息が止まる。
クラスメイトが戯れで指し示した指の先、そこに写るのはアスランの何よりも大切な人。
いつだって、彼女のことを応援してる。
そんなアスランの心情を知らず、クラスメイト達はけたたましく反応した。
「え~それは無いっ!」
「アスランはこういうガサツ系は無理だろ。第一、コイツたいして可愛くないし。男で好きな奴いんの?」
「確かにあんまカガリンのこと好きっていう人、聞かないかもね~」
矢継ぎ早に続く否定の言葉に、アスランは立ち上がり大声をあげたかった。
カガリがどんなに素晴らしい女の子か声を大にして説明してやりたい。
カガリは確かに短い髪をはじめボーイッシュな姿が多いし、あまり丁寧ではない言葉づかいだが、それを補ってあまりある魅力にあふれているのだ。
光を跳ね返す髪は眩しく、琥珀色の瞳からは目が離せない。
言動は粗野なところもあるが、その心根は優しく、自分のことを後回しにして周りを助けようとするカガリは、メンバーからも頼られているのだ。
心が塞いだとき、カガリの姿を見るだけでどれほど救われるか。
自分がどんなに彼女のことを好きか教えてやりたい。
カガリの魅力に気が付かない奴は皆馬鹿だ。
しかし胸の内を曝け出せることもなく、アスランは皆同じ顔に見えると苦し紛れな言い訳して、その場を凌ぐしかなかった。