まほろば
アスランの紹介を受けて、カガリは少し迷ったような顔でキラを見た。
どうすればいいか伺う様なカガリに、キラは軽く頷いた。
「大丈夫、アスランはSEDのことをよく知らないから」
「そっか、私はカガリだ!よろしくな、アスラン」
カガリの顔がぱっと綻び、次いで明るい笑顔がアスランに向けられる。
「よ、よろしく、お願いします」
こちらに向けられた顔を直視できずに、アスランは俯いてぼそぼそと挨拶を返した。
初対面の相手に失礼な態度ではあるが、これが今のアスランに出来る最大限の反応だった。
しかしカガリはアスランの様子に気分を害することなく、二人の姿をまじまじと眺めた。
「キラが友達連れてくるって珍しいなあ」
「今回のテスト、僕まじでやばくてさ。アスランは学年トップの秀才だから、少し見てもらおうと思って」
悪びれなく笑うキラに、カガリが目を丸くした。
「学年トップ?!キラの高校って進学校なんだろ?アスラン凄いな」
「あ、う」
尊敬の眼差しでカガリに見つめられても、アスランの口からでるのは意味をなさない途切れた言葉だけ。
挙動不審のアスランをよそに、双子の会話が続く。
「本当、先生にも一目置かれてる超優等生なんだよ、アスランはおまけにすっごく優しくて面倒見がいいし」
「え~いいな。私なんて芸能人ご用達の甘い高校に転校したのに、それでもレポート全然書けなくて、今最高に単位危ないのに」
憂鬱そうな顔をしたカガリに、キラがさらりと何でもないように言った。
「カガリもアスランに見てもらえば?」
「えっ!いいのか?」
目を輝かせたカガリが勢いよくアスランを振り返る。
アスランは、驚いて声が出せなかった。
「ね、いいでしょアスラン。レポートなんて、君にとっては日誌みないたものでしょ」
「あ、その・・・」
無理だ。
アスランの頭のなかで警報が鳴る。
カガリの勉強を見るなんて、心も体も保てない。
心身ともに疲弊し、おかしくなってしまう。
「アスラン本当にいいのか?本当に私のレポートも手伝ってくれるのか?」
「あ、あ、お、おれに出来ることがあれば」
「やったあ!アスラン有難う!」
しかしカガリに懇願の籠った目で見つめられれば、頷かないでいられるはずがない。
自分の心臓なんてどうでもいい。
たとえ体力と精神力を使い果たし、襤褸雑巾になったって、目の前の女の子の役に立てるならいいじゃないか。
アスランはそう、覚悟を決めた。
実際キラの勉強を見ながらカガリのレポートも一緒に指導してやると、極度の緊張で頭が回らないながらも、やはり秀才として誉れ高いアスランは完璧に二人の面倒を見てやり、勉強会の最後には非常に感謝されたのだった。
「アスラン、また来てくれないか?」
玄関先までアスランを見送りにきたカガリが尋ねた。
「カガリ」
靴ひもを結んでいた動きがぴたりと止まったアスランの代わりに、同じく見送る為にカガリの横に並んでいたキラが咎めるような目でカガリを見た。
自分のおまけとしてアスランにレポートを手伝ってもらうぶんには良いが、カガリの為だけにアスランを家に呼ぶのはいただけないらしい。
キラは必要以上にカガリが異性と接触するのを嫌うのだ。
しかし、カガリも負けじとキラを睨み付けた。
「だってキラは手伝ってくれないじゃないか!」
ぐっとキラの喉がつまり、屈んだままのアスランをまじまじと見つめた。
「まあアスランなら変なことにならないだろうし」
自分に言い聞かせるように呟くと、キラはにっこりとアスランに笑いかけた。
「これからもカガリの勉強見てやってよ。アスランが良ければだけど」
そう言われて、アスランはしゃがんでいた身体を起こした。
「あ、俺で良ければいつでも」