SCANDAL
自分から女性に話かけただけでも、アスランにとってはイレギュラーなことだったが。
普段の彼では考えられないことに、アスランはその場に留まり、カガリとの話を続けた。
自分たちの頭上を取り巻く星座だけではなく、好きなものや、学生時代のこと、色々なことを話した。
人と話すことがあまり得意ではないアスランだったが、カガリとの会話は、身構えることもなく、まるで呼吸をするように、自然で楽だった。
打算で形成される作り笑いなどではない、自分の感情に素直に従った故の豊かな表情を持つカガリとの会話は楽しいとさえ思えた。
和やかに会話をする様は、合コンで貝のように黙っていた二人にはとても見えなかった。
「ああいう場、苦手なんだよ」
そう指摘すると、むくれたようにカガリは言った。
「初対面の人とお酒を飲むより、気ごころ知れた人と飲んだほうが、お酒はずっと美味しいじゃないか」
それはアスランも思っていたことだった。
ああいう場での食事は疲れるだけだ。
個人主義のアスランは、一人で取る食事が一番安らぐ。
けれども、カガリとは楽しい食事ができるかもしれない。
そんなふうに思う自分にアスランは驚いた。
そうやって公園のベンチに二人座っていたが、そろそろ帰らないとと、カガリが立ち上がった。
腕時計を見ると小一時間ほど過ぎていた。
「もうこんな時間か」
時間の経過を忘れるくらい、二人は話をしていたのだ。
公園を出た後で並んで駅まで歩き、目的の駅につくと、平日の遅い時間ということもあり、人はほとんどいなかった。
「じゃあ、私こっちだから」
「あ、待って」
反対側のホームの階段に向かうカガリを、アスランは咄嗟に引き留めた。
「良かったら、携帯のアドレス交換しないか」
自分から異性にメールアドレスを聞くのは、初めてだった。
カガリは少し目を見開き、二、三度まばたきをして、そしてにっこりと笑った。
「いいぞ!」
次の日。
クラブチームの練習を終え、帰宅途中の電車の中。
いつも通り、座席で読書をしていたアスランだったが、ふと中吊り広告に目が留まった。
それは週一で発行される若い男性向けの漫画雑誌の広告だった。
『暁の妖精カガリ・ユラ、ヤングプラントに堂々初登場』
そんな見出しと共に、淡いグリーンの水着を着たカガリが、可愛らしく笑っている。
昨日合コンにやってきた女の子たちは、ディアッカいわくみんな人気グラビアアイドルらしいが、そういう世界に全く興味の無いアスランは誰ひとり知らなかった。
しかしこうしてみると、ディアッカの言っていたことは本当だったのだろう。
カガリが載っている漫画誌は、発売日になるとクラブチームのロッカーに積まれ、メンバーが我先にと夢中で読むほどの人気漫画誌である。
そんな漫画誌の表紙は恐らく、ある程度の人気と知名度がなければ飾ることはできないだろう。
本当にグラビアアイドルなんだ・・・。
アスランは改めてそう思ったが、その水着姿に特に嫌悪感は沸かなかった。
ほっそりとした身体は健康的で、いやらしさを感じさせず、幼さの残る顔立ちも相まって、お転婆な妖精のように見えた。
何よりその笑顔は明るく眩しく、アスランがグラビアアイドルと聞いて思い浮かべるような媚びた雰囲気が微塵も感じられなかった。
もっとカガリと話したい。
そんな衝動的な想いにかられて、アスランは携帯電話を取り出した。