SCANDAL
(どうしたものかな・・・)
前方を歩く人影に、アスランはどう接するかべきか、しばし巡廻した。
先ほどまで同じ場に居たといっても、テーブルの端と端で一度も会話はしていない。
もっとも、近くに座っていた女の子たちとも、会話が弾んだとは言えなかったのだが。
それに、カガリという少女は会の最中、話しかけられれば必要最低限の受け答えはしていたが、積極的に場に馴染もうとはしていなかった。
合コンでの彼女の会話量は、恐らくアスランと同じくらいだろう。
そんな彼女に、口下手な自分が話しかけたところで、会話が弾むとは到底思えず、アスランは歩調を緩めた。
駅につくまで、彼女の背中を見つめ、追い抜かないようにする。
(あれっ・・・)
淡々とカガリの後ろを歩いていたアスランだったが、思わず足を止めた。
当然真っ直ぐ駅に向かうと思っていた彼女が、突如道を逸れたのだ。
アスランのところからはよく見えないが、そこにあるのは空き地か何かのようだった。
ずっと突っ立っているわけにもいかないので、アスランは再び歩きはじめた。
彼女は空き地にいるはずで、その横を通り抜けることに、若干気まずさを感じるが、家に帰るためには仕方ない。
それでも、空き地の横に差し掛かったとき、アスランはついそちらに視線を向けてしまった。
こんな時間に女の子が一人でいるのだ。
静かな住宅街とはいえ、やはりそれは危険なことに思えたし、何より彼女がそこで何をしているか気になってしまったからだ。
空き地と思った場所は、小さな公園だった。
彼女は暗く静かな公園で一人、空を見上げている。
その姿は、まるで暗い海の底に沈んだ彫像のようだった。
「何、見てるんだ?」
そう声を掛けてしまったのは、星空を見上げる彼女の顔が驚くほど真剣だったからか。
声を掛けたあとで、アスランは自分で自分の行動に驚いた。
気付かぬふりをして、足早に通り抜けてしまおうと思ったのに。
「えっ・・・」
しかし驚きではもちろん、カガリのほうが大きかった。
振り向いた琥珀は大きく見開かれている。
「あ・・・お前、さっきの」
「実は後ろを歩いていたんだ。駅の方向同じみたいで。気が付かなかった?」
「あ・・ああ。足音が全然しなかったから。お前もマイウス駅から帰るのか?」
「そうだが・・・確か君はタクシーで帰るんじゃなかったのか?」
私たち、一本向こうにいった大通りからタクシー拾うんで!
女の子は店の前で確かにそう言ったはずだったが。
歩いて帰るなら、男性陣はあのような別れ方は決してしなかったはずだ。
女の子に夜道を一人歩かせるなんて、許すような連中ではない。
現にほとんど人通りのない夜道を歩くカガリの姿は、ひどく危険に見えた。
「安心しろ。ルナたちは明日早いから、タクシーで帰った。私は明日オフだし、身体を冷ましたかったから、歩いて駅まで行って電車で帰ろうと思ってな」
「じゃあ、まっすぐ帰ればいいのに。公園で何をしているんだ。危ないだろう」
咎めるようなアスランに、全く気にするそぶりを見せず、カガリは再度夜空を見上げた。
「星、綺麗だろう」
あっけらかんとした口調だった。
「あそこに赤い星が見えるだろう。あの下にあるのが、おおぐま座。その斜め下にあるのはいぬかい座。それでその下あたりに、何か黒いモヤモヤあるの分かるか?」
「え・・・」
質問をしていたのは自分だったのに、アスランはつられて顔を上げてしまった。
「あれはダーリントン星雲だ」
「・・・・君は、星を見ていたのか?」
「正確には、流星かな」
カガリが視線を前に戻すと、いたずらっぽく言った。
「私の故郷では今日、南十字星流星群が見えてるんだ」
「南十字星・・・・」
繰り返した星座の名は、アスランにとっては、聞きなれないものだった。
「知らないのか?まあ、仕方ないな。プラントでは見えないから」
「どこなら見えるんだ?」
星にいまいち興味があるわけでもないのに、アスランは尋ねていた。
それはすなわち、カガリの故郷を訪ねる質問でもあった。
プラントから見えない星座が見える場所。
恐らく、経度と緯度がプラントとは大分離れているのだろう。
「・・・・オーブ」
アスランの予想通り、そこはプラントよりもはるか南にある国だった。
前方を歩く人影に、アスランはどう接するかべきか、しばし巡廻した。
先ほどまで同じ場に居たといっても、テーブルの端と端で一度も会話はしていない。
もっとも、近くに座っていた女の子たちとも、会話が弾んだとは言えなかったのだが。
それに、カガリという少女は会の最中、話しかけられれば必要最低限の受け答えはしていたが、積極的に場に馴染もうとはしていなかった。
合コンでの彼女の会話量は、恐らくアスランと同じくらいだろう。
そんな彼女に、口下手な自分が話しかけたところで、会話が弾むとは到底思えず、アスランは歩調を緩めた。
駅につくまで、彼女の背中を見つめ、追い抜かないようにする。
(あれっ・・・)
淡々とカガリの後ろを歩いていたアスランだったが、思わず足を止めた。
当然真っ直ぐ駅に向かうと思っていた彼女が、突如道を逸れたのだ。
アスランのところからはよく見えないが、そこにあるのは空き地か何かのようだった。
ずっと突っ立っているわけにもいかないので、アスランは再び歩きはじめた。
彼女は空き地にいるはずで、その横を通り抜けることに、若干気まずさを感じるが、家に帰るためには仕方ない。
それでも、空き地の横に差し掛かったとき、アスランはついそちらに視線を向けてしまった。
こんな時間に女の子が一人でいるのだ。
静かな住宅街とはいえ、やはりそれは危険なことに思えたし、何より彼女がそこで何をしているか気になってしまったからだ。
空き地と思った場所は、小さな公園だった。
彼女は暗く静かな公園で一人、空を見上げている。
その姿は、まるで暗い海の底に沈んだ彫像のようだった。
「何、見てるんだ?」
そう声を掛けてしまったのは、星空を見上げる彼女の顔が驚くほど真剣だったからか。
声を掛けたあとで、アスランは自分で自分の行動に驚いた。
気付かぬふりをして、足早に通り抜けてしまおうと思ったのに。
「えっ・・・」
しかし驚きではもちろん、カガリのほうが大きかった。
振り向いた琥珀は大きく見開かれている。
「あ・・・お前、さっきの」
「実は後ろを歩いていたんだ。駅の方向同じみたいで。気が付かなかった?」
「あ・・ああ。足音が全然しなかったから。お前もマイウス駅から帰るのか?」
「そうだが・・・確か君はタクシーで帰るんじゃなかったのか?」
私たち、一本向こうにいった大通りからタクシー拾うんで!
女の子は店の前で確かにそう言ったはずだったが。
歩いて帰るなら、男性陣はあのような別れ方は決してしなかったはずだ。
女の子に夜道を一人歩かせるなんて、許すような連中ではない。
現にほとんど人通りのない夜道を歩くカガリの姿は、ひどく危険に見えた。
「安心しろ。ルナたちは明日早いから、タクシーで帰った。私は明日オフだし、身体を冷ましたかったから、歩いて駅まで行って電車で帰ろうと思ってな」
「じゃあ、まっすぐ帰ればいいのに。公園で何をしているんだ。危ないだろう」
咎めるようなアスランに、全く気にするそぶりを見せず、カガリは再度夜空を見上げた。
「星、綺麗だろう」
あっけらかんとした口調だった。
「あそこに赤い星が見えるだろう。あの下にあるのが、おおぐま座。その斜め下にあるのはいぬかい座。それでその下あたりに、何か黒いモヤモヤあるの分かるか?」
「え・・・」
質問をしていたのは自分だったのに、アスランはつられて顔を上げてしまった。
「あれはダーリントン星雲だ」
「・・・・君は、星を見ていたのか?」
「正確には、流星かな」
カガリが視線を前に戻すと、いたずらっぽく言った。
「私の故郷では今日、南十字星流星群が見えてるんだ」
「南十字星・・・・」
繰り返した星座の名は、アスランにとっては、聞きなれないものだった。
「知らないのか?まあ、仕方ないな。プラントでは見えないから」
「どこなら見えるんだ?」
星にいまいち興味があるわけでもないのに、アスランは尋ねていた。
それはすなわち、カガリの故郷を訪ねる質問でもあった。
プラントから見えない星座が見える場所。
恐らく、経度と緯度がプラントとは大分離れているのだろう。
「・・・・オーブ」
アスランの予想通り、そこはプラントよりもはるか南にある国だった。