SCANDAL
PM11時30分。
指定された場所は、ヘリオポリス随一の高級ホテル、そのVIP用エントランスホールだった。
ZAFTの選手たちが滞在しているそのホテルまでは、カガリ達のホテルからタクシーで10分程度。
ZAFT側が手配してくれたリムジンで指定の場所に辿りつけば、そこには大好きな人の姿があった。
カガリ達を迎える為、パーティー会場を抜け出してきてくれたのだ。
「アスランッ・・!」
「カガリ」
柱の隅にいたアスランが、エントランスをくぐったカガリのもとにやってくる。
夜も遅いうえに、パーティーは既に始まっていて、エントランスにはカガリ達以外に誰もいないが、アスランは出来るだけ目立たぬようにしているようだった。
「無事にこれて良かった」
アスランに優しく微笑まれたカガリの後ろから、ルナマリアが頭を下げた。
「こんばんは!お招きありがとうございます。優勝祝賀会に参加できるなんて、感激です!」
昼の決勝戦観戦時のラフな恰好とは違い、今のルナマリアはブラックのシックなワンピースに派手目なアクセサリーを重ね付し、とても華やかだ。
その隣のミーアも同様で、服装はもちろん、メイクと髪型もばっちり決めている。
昼の決勝戦が終わったあと、途端に渦中の人となり、警備員に付き添われ関係者口から帰路につこうとしたカガリのもとへ、アスランから今夜行われるというZAFT優勝祝賀会への招待が
メールで入り、こうして三人でやってきたのだった。
「あ、こちらこそ来てくれてありがとう。場所はこのホテルの8F大ホールなんだけど、場所は分かる?」
「分かります・・けど・・」
笑みを引っ込ませたルナマリアがぎこちなく頷く。
カガリも不思議そうにアスランを見た。
このままアスランも一緒に会場へ戻るのではないのだろうか。
「じゃあ、君たちだけで行ってもらえるか?入り口で俺の名前を言ってもらえば大丈夫だから」
「あ、はい・・」
「じゃあ、俺たちはこれで」
軽く挨拶をすると、アスランはカガリの腕を取り、唖然とするルナマリア達を残し、エントランスホールを突っ切っていく。
「ちょっ・・アスラン!何なんだよ」
「何って?」
エレベーターに乗り込んだところで、カガリはやっと尋ねることができた。
それまでは、意図が分からない、しかし迷いのないアスランの行動に、呆気に取られてしまっていたのだ。
「どこに行くんだよ?お前。パーティには戻らないのか?」
今二人が乗っているエレベーターは高層階用のエレベーターで、祝賀会場である8階には止まらない。
今日の主役のはずである彼が、パーティーを抜け出して良いはずがなかった。
「戻らない。今から行くのは俺の部屋だ」
至極当然のように言ったアスランに、カガリは目を見開いた。
エレベータのボタンが押されているのは、パーティー会場よりも20上の階だった。
「え?ええっ・・?」
「最初の30分は出席したんだ。必要な挨拶周りは全てやったし、問題ないだろう」
「でっ・・でも!」
「大丈夫。最初の一時間が過ぎれば、あとはただの馬鹿騒ぎになるだけだから。そこまで付き合う必要はない」
「だけど・・」
「何だ?」
まだ何か言いたそうなカガリに、アスランが顔を傾けた。
身体の奥底が熱をもって、それが頬まで伝わってくる。
あまりの恥ずかしさに、真っ直ぐなエメラルドの瞳を直視できなくて、カガリは下を向いて訊ねた。
「アスランの部屋に、行くのか?」
「あ・・それが一番ゆっくり話せると思ったからなんだが、駄目だったか?」
「いや、駄目・・じゃないけど」
「良かった。本当だったら皆二人部屋なんだけど、奇数で一人あまって、俺は一人部屋にしてもらっているから、誰も来ない。安心していい」
アスランがそこまで言ったところで、エレベーターのドアが開いた。