SCANDAL



その衝撃的な発言から一拍おいて、スタジアムが揺れた。
悲鳴と歓声が入り混じっている。
ワールドカップの表彰式の場で告白など前代未聞だが、全世界が注目するこの舞台で、アスランはそれをさらりとやってのけてしまったのだ。

「えっと、あの、それはプロポーズですか?」

少しの間唖然としていたが、それでも本能的に自らの職務に戻ったインタビュアーの質問に、アスランは目を丸くした。
とんでもないことをしたというのに、その自覚はなかったらしい。
騒がしかったスタジアムが一転、固唾をのんでアスランの一挙一動を見守っている。

「それは、」

「はいっ!そこまで!!」

アスランとインタビュアーの間を、ハイネが突如手で遮った。

「ここから先はプライベートなんで!スイマセン。時間推してますし、他の選手にインタビューしちゃってください」

アスランの件は優勝したことを吹き飛ばす程の破壊力だったが、下手をすると扱いきれない爆弾でもあり、また本来の目的である試合終了後の選手へのインタビューを、まずは果たさなければならないとインタビュアーは判断したらしい。
ハイネの絶妙な横入りに乗る形で、アスランからマイクを離した。
仕切り直しをして優勝インタビューが再開されたが、今のことが各国の明日の朝のワイドショーで話題になるのは間違いなかった。








「アスラン、自分が一体何をしたか分かっているのか?」

控え室に戻ってきた選手達を迎えたマネージャーの第一声は、祝福でも、労いの言葉でもなく、罵声だった。
恐ろしい剣幕でアスランに走り寄り、そのまま襟首でも掴んでしまいそうな様子は、いつも慇懃無礼なほど冷静で皮肉げな笑顔を浮かべている彼とは程遠かった。
天性のサッカーセンスに、細部まで作り込まれた美しい容姿。
彼にとって間違いなく、アスラン・ザラはサッカー界の何十年に一人という逸材だった。
チームをワールドリーグ優勝に導いたスーパーエースという肩書きが加わった、この極上な素材をどう上手く使おうか、それは自分の腕の見せ所だと、彼は非常に楽しみにしていたのだが。
アスランは彼のその楽しみを、あっさりと手折ってしまったのだ。
彼が激高するのも無理はなかった。

「全世界に流れたんだぞ!もう取り返しがつかない。どうしてくれるんだ!!」

「周辺が騒がしくなってしまうのは、申し訳ないと思います。ですが俺はもう隠さないことに決めたんです」

フォローをしたくても、マネージャーの剣幕に誰も、ハイネでさえ何も言えなかった。
しかし、当のアスランだけは毅然としていた。
固い空気で満ちた控え室に、アスランの低音だけが響く。
しかし、反抗するのでもなく、悪びれるふうでもなく、冷静に受け答えをするアスランのその態度がマネージャーの怒りを抑えることはおろか、むしろ余計に煽ってしまったようだった。

「ワールドリーグで優勝して、早速スター気取りか?ここまで大きく育ててやったのは誰だと思っている?!俺の方針に従えないのなら、MVPだろうがなんだろうがZAFTに居る資格はない!グラビアアイドルの女といちゃいちゃとしたいんだったら、ここを出て言ってもらうからな!」

部屋にいるほとんどの者が息をのんだ。
サッカー選手にとって、円満な理由以外に所属チームとの契約が切れることは、非常にまずいことなのだ。
アスランほどの選手であれば、いくらでも他のチームが拾ってくれるだろうが、それでもイメージの悪さは拭えないし、契約内容も足元を見られる。
マネージャーからの究極の脅しに、アスランはどう応えるのか。
屈服するのか、勢いにまかせてZAFTを去るのか。
皆の集中する視線を浴びながら、アスランはゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。

「ZAFTに入ってから、色々と気にかけて頂いたマネージャーには感謝しています。ですが、どうしても今回だけは、あなたの方針に従うことはできません」

「なんだと?」

「おい、アスラン・・!もうやめろ」

マネージャーの剣幕に気圧されていたハイネだったが、これ以上はマジでヤバイと、アスランの前に回り込み、止めに入ろうとしたが、一拍遅かった。

「そうか、ZAFTを出ていくんだな。勝手にしろ。ヘリオポリスでもアークエンジェルでも、好きなところに行けばいい!!」

マネージャーが決定打を打った。
ここまできてしまえば、もう笑って冗談でしたでは済まない。
出ていけと、ついに言葉にされてしまったのだ。
水を打ったように部屋は静かになり、聞こえるのはマネージャーの荒い息だけだった。

「俺は、ZAFTを出ていく気はありません」

しばらく経って、アスランは静かに言った。
落ち着いていたが、はっきりと自らの意思を持った声だった。

「俺の言葉が聞こえなかったのか?俺の方針に従うか、ZAFTを出ていくか、選択は一つなんだよ」

「いいえ。あなたこそ、大株主の意向に従って頂きたい」

「大株主?」

突拍子もなくいきなり出てきた単語に、マネージャーは顔をしかめた。

「はい。昨日、ZAFTの株の9割を、ザラ・コーポレーションが買い取ったことをご存じでしょうか?ザラ社は俺のプライベートを応援してくれています」

今度はマネージャーが息を呑む番だった。

「ザラ社って・・」

「もしかして、あいつの実家?」

彼には、ざわめく選手たちの声がどこか遠くに聞こえた。
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