SCANDAL




試合終了のホイッスルが鳴るのを、どれだけ待っていたことか。
逸る気持ちは、ロスタイムになると特に大きかった。
ホイッスルが鳴らされたのと同時に、カガリは全身の力が一気に抜けたような気がした。
どよめくスタジアム。
歓喜に沸くZAFTのサポーター。
その瞬間、ZAFTがワールドリーグを制したのだ。


目立たぬようにするのも忘れ、ルナマリアやミーアはもちろん、周りのサポーターと手を取り抱き合って勝利の喜びを分かち合っていたカガリだったが、試合終了後すぐに表彰式の時間となった。
再び選手たちが入場し、ZAFTチームが一番高い表彰台に並ぶ。
大歓声のなか、キャプテンであるハイネが優勝トロフィーを受け取り、その後メダルを首にかけてもらう選手が順々に、スタジアムの巨大スクリーンに映し出される。
その過程のなかで、アスランの順番が回ってきたとき、一際大きな歓声が沸いた。
落ち着いた雰囲気と品のある容貌は、まるで貴公子のようで、とてもスポーツ選手には見えないのに決勝点を鮮やかに決めたZAFTのエースは、このワールドカップで名実共にスーパースターとなった。
スタジアムだけではない、表彰式の様子は全世界に生中継され、多くの人が彼の姿に感嘆し賞賛を送っているのは容易に想像できる。
ハイネやディアッカをはじめ、選手の多くは勝利に浮かれ、プレッシャーからも解放されて、カメラに向かって何か言ったり、ピースサインをしたり、割と自由奔放に振舞っていたが、アスランは几帳面な態度を崩さない。
大歓声のなか淡々とメダルを受け取り、大会委員長と握手をするアスランはどこか遠く、カガリは一心に彼を見つめた。
彼の神がかったプレーを目の当りにしたからだろうか。
サッカーの神に愛された彼を、恋人という名の枷で自分に縛り付けていいのだろうかと不安になる。
彼は何にも囚われず、もっともっと自由に、更なる高みを目指していったほうが幸せなのではないのかと思うと、カガリの胸は酷く圧迫される。
この痛みは、スターと呼ばれる存在を好きになってしまった代償なのだろうか。
それでも今すぐ、アスランと話ができるのなら、このモヤモヤとした苦しみはなくなってしまうのに。
彼の笑顔は、カガリにとって、それだけの効力を発揮するのだ。
どんなに寂しくても、アスランがあの少し低い優しい声で名前を呼んでくれたら。
抱きしめてくれたら。
――――好きだと言ってくれたら。
しかし、表彰台に立っている彼は、どこまでも遠かった。
ZAFTが優勝し、その立役者である彼だ、これから連日取材に忙しいだろう。
次に会えるのは、いつになるのだろうか。
そう思いながら、一列になって表彰台を下りるアスランを見つめていると、早速ヒーローインタビューが始まった。
試合の勝因や今の気持ちを監督に続き、ハイネが答えると、次のマイクの標的はアスランだった。
おそらく、中継でこの様子を見ているすべての人が、アスランのインタビューを待ちきれないでいるに違いなかった。
それはインタビュアーも例外ではなかったようで、その口調は興奮ぎみだった。

「アスラン選手!お疲れ様でした!まずは今の率直な気持ちをお聞かせください」

「はい。優勝することが目的でしたので、とりあえずは今はほっとしています」

世界各国に知名度のある中年の人気インタビュアーに、笑顔をつくるでもなく、アスランは丁寧に答えた。

「アスラン選手が、今大会MVPの最優秀候補とのことですが!」

「それはまだ決定していないので、私からは何ともいえません・・・」

「決勝点のゴール、鮮やかでしたね!」

「ありがとうございます」

いつものことだが、観客が喜ぶような気の利いたコメントはもちろん、アスランは口数さえ少なかった。
プレーで見せるカリスマ性と、恵まれた容姿を持ちながら、社交性が少ないのがアスランだった。
しかし最近では、そのギャップがアスランの魅力のひとつでもあるというのが、世間の、特に若い女性の意見だった。

「このメダル、一番最初に誰にかけてあげたいですか?」

アスランのことだ、両親やお世話になった学生時代のコーチという無難な答えが返ってくるだろうと思っていたインタビュアーだったが。

「・・・俺の大切な人ですね」

「大切な人?もしかして恋人ですか?」

思いがけない答えに、もしかしたら超人気サッカー選手の特大ニュースが取れるかもしれないとインタビュアーは勢いづく。

「いや、正式にはまだです。告白をちゃんとしていないので」

「え?」

瞬いたインタビュアーを気にすることもなく、アスランはVIP席に顔を向けた。
しかし、それでもマイクがしっかり音を拾える距離だった。

「カガリ、俺と付き合ってくれないか?」

アスランはインタビュアーの予想を遙かに超えた爆弾を落とした。
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