SCANDAL



「アスラン・・大丈夫かしら」

スタジアムにいる大多数のZAFTのサポーターが、ルナマリアのようにアスランの怪我を案じていた。
後半戦まで15分の休憩時間。
その間に応急処置はしているだろうが、トレーナーに無理だと判断されれば、後半戦に出ることはできない。

「大丈夫よっ!だって転んだあとも普通に走ってたじゃない。ねえ、カガリ」

「ああ・・・」

ミーアに促され、カガリは頷いた。
アスランが怪我をしていたらどうしよう。
本当は心配で仕方ないが、今は大丈夫だと信じるしかなかった。
グラウンドに立った彼に、自分がしてやれることなど一つもないのだから。
ボールを貪欲に追うアスランの姿からは、彼がいかにサッカーに対してひたむきに情熱を注いでいるかが伝わってくる。
そんな彼にワールドリーグという大舞台を、存分に味わって欲しかった。
怪我で不出場など、そんな遣り切れない事態にだけはなって欲しくない。
カガリは祈るようにアスランの無事を願った。
休憩の15分があっという間に過ぎ、選手たちが再びグラウンドに現れる。
ZAFTの赤い選手団の中に、果たして、藍色の彼はいた。
その姿を見て、琥珀色の瞳がじんわりと潤む。
アスランは、まだワールドリーグを堪能できるのだ。
それがどうしようもなく、嬉しい。
もちろん勝利は手にして欲しいが、彼がこの場にいることが何より尊いことに思えた。

再びホイッスルが鳴り、後半戦が始まる。
同点のまま迎えた後半戦は、両チームともに得点を狙って激しさを増す。
ポジションが前半と逆になり、今度はカガリの真下のゴールがヘリオポリスのゴールになる。
それはつまり、ZAFTのフォワードであるアスランが、ここに攻め込んでくるということだ。
前半よりもアスランがぐっと近くになり、カガリはさらに息が詰まってしまう。
周りのサポーターのように、歓声の一つも上げられないのだ。
ただじっと白熱した試合運びに、息を詰めて見つめることしかできない。
そしてそれは、後半も半分が過ぎたところだった。
相手の隙間を縫うように、パスで繋がれるボール。
まるで狙ったかのように前へ飛び出し、絶妙な位置でそれを受け取るアスラン。
ゴールキーパーが前へ飛び出そうとした瞬間。
アスランの右足から繰りだされたボールが空気を裂くような、鋭い直線を描く。
一瞬時が止まり、それが再び動き出したとカガリが感じた瞬間、ボールがゴールネットを揺らした。
湧き上がる大歓声にスタジアムが揺れる。
ZAFTのメンバーがアスランに走り寄り、勢いよく抱きついていく。

「きゃー!!アスランすごいっ!!」

「カガリやったね!!アスラン、点入れたよ!!」

大興奮の友人二人に身体を揺さぶられても、カガリはすぐに実感が沸かなかった。

「うそ・・・」

スタジアム中央にある、巨大な電光掲示板が「0ー1」と表示される。
その光の点滅が、ZAFTが本当に点を取ったのだと、カガリに教えてくれる。

「いれたんだ・・本当に」

アスランがZAFTに先制点をもたらしたのだ。
皆の期待を一身に背負いながら。

「やった・・・」

そう呟けば、大歓声に後押しされる形で、カガリの興奮もみるみる高まって行った。

「やったー!!」

ついには目立たぬようにしていたのも忘れ、立ち上がり飛び跳ね、カガリは全身で喜びを爆発させた。

「やったー!いえーい!!」

「きゃー!やったやった!」

ルナマリアとミーアと抱き合って、ひたすら歓声を上げる。
そしてこの先制点が決勝点になり、ZAFTが勝利を収めたのだった。
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