SCANDAL
(アスラン・・・)
カガリの視線は、ZAFTの赤いユニホームに身を包んだ彼に一瞬で引き寄せられた。
ブラウン管越しでない、生身で試合に挑む彼の姿を見るのは初めてだ。
期待や緊張で胸がいっぱいになってしまい、周りが歓声をあげるなか、カガリは声もあげずにただ固まっていた。
自分が試合をするわけでもないのに、何故こんなに緊張してしまうのか。
息を潜めるカガリをよそに、国家が流れ、あっというまに試合が開始される。
(始まった・・・)
ボールの動きとともに、グラウンドにいる選手たちが駒の目のようにポジションを移動していく。
こうして見ると、色鮮やかなチェスのようだ。
大きなうねりのように試合が流れ、ゴール近くになると、一気に流れが鋭く加速する。
前半はカガリたちのいる関係者席はZAFTから見て守備側だった。
すぐ真下のゴールはゴールキーパーであるミゲルが守っており、フォワードであるアスランはほぼ向こう側で、ここまで来ることは少ない。
もっともZAFTの守備側が賑やかになるということは、相手チームに攻められているということなのだから、あまり喜ばしくない事態である。
アスランに近くに来て欲しいけれど、来てほしくないという複雑な気分を抱えながら、カガリは食い入るようにボールの運びを見つめる。
今日の決勝戦の対戦カードは、ZAFT対ヘリオポリス。
ヘリオポリスはZAFTに負けずとも劣らない強豪チームなうえに、このワールドリーグの開催国だ。
実力は拮抗しているが、ホームグラウンドであるという地の利があり、試合前の世論ではヘリオポリスがやや有利ではないかと言われている。
互いに攻めるものの守備は固く、なかなか試合が動かないと思われた前半30分過ぎ、スタジアムに歓声が膨れ上がった。
アスランが敵の守備を華麗なパスさばきでかわし、ゴール前まで抜け出てきたのだ。
(アスランっ・・!)
固く手を握っていたカガリの息が止まる。
決勝戦の最初の一点が決まる。
スタジアムの誰もがそう期待した瞬間、甲高いホイッスルの音が響く。
アスランが運んだボールはゴールネットを揺らさなかった。
代わりに、アスランが相手チームと折り重なって倒れている。
「え・・・」
倒れたまま、背中を丸め、片足を抑えているアスランに、カガリは絶句する。
起き上がれずにいるアスランのもとへ、審判やチームメートが走り寄っていく様子に、ミーアが悲鳴に近い声を上げる。
「えっ・・ちょっと、アスランどうしたのお?!」
「相手チームと接触したんだわ」
ZAFTのエースの負傷に、スタジアムは騒然となる。
しかし、ほどなくしてアスランはディアッカの肩を借り、立ち上がると試合継続の意思を見せた。
「あ・・大丈夫そう。良かったね、カガリ」
「うん・・・」
ミーアに頷きはしたものの、カガリは気が気ではなかった。
試合が再会されたものの、アスランは僅かに足を引きずっているのだ。
(怪我をしたのかもしれない・・・)
無理をおして試合を続けているのかもしれないと思うと、やめてと叫びたくなってしまう。
それでもアスランは先ほどまでと変わらないプレーを続け、両者一歩も譲らず0対0のまま前半が終了したのだった。