SCANDAL





ワールドリーグが開幕した。
試合が連日生中継で放送され、報道もそれ一色になり、4年に一度の祭りに人々は大いに熱狂した。
特に優勝候補と名高い、プラント代表ZAFTの、期待を裏切らない順当な勝ち上がりに、プラント中が注目し、興奮していた。
カガリはそれらの試合をテレビで見ていた。
決勝戦を見に行くためには、ZAFTにそこまで勝ち上がってもらわなければならない。
息を詰めて試合を見守りながら、圧倒的な強さを誇るZAFTの中で、アスランが一際目立っていることに気付く。
洗練された技術、天性のサッカーセンス。
ZAFTの得点のほとんどが、アスランからの絶妙なパスから生まれたものだった。

「アスラン・・・」

コート上の藍色に惹きつけられ、カガリは目が離せない。
ボールを操るアスランの真剣で鋭い表情に、どうしようもなく胸が高鳴ってしまう。
やがて試合終了のホイッスルが鳴り、ZAFTチームのサポートー達が歓喜の声を上げ、テレビの前で知らずに入っていた、カガリの肩の力も抜ける。
今日もZAFTが勝って、優勝にまた一歩近づいた。
決勝戦まであと1試合。
相手チームの選手と握手をするアスランを見ながら、カガリは逸る期待感でいっぱいだった。













「うわー!すっごい人!」

ルナマリアは数万人の観客で埋まったスタジアムを見回した。
会場と包む熱気と高揚感は、おそらく今までの試合と比べ物にならないだろう。

「ほんと!来れるだけでも凄いのに、ワールドリーグの決勝戦をこんないい席で見れるなんて、カガリのおかげね!」

興奮して席から身を乗り出していたミーアが後ろを振り返る。
その手には、しっかりとZAFTの旗が握られている。

「あ、ああ・・・私というか、アスランの・・・」

もごもごと口ごもるカガリは今、ルナマリアとミーアに挟まれて、ワールドリーグ決勝戦の会場であるスタジアムの関係者席にいた。
あれから準決勝も接戦のうえ勝利をおさめ、ZAFTは見事決勝戦の切符を掴み、カガリはアスランから貰ったチケットとともに、ワールドリーグの開催場所であるヘリオポリスまで遠路はるばるやってきたのだ。

「アスラン・・・ね。何とかなったみたいで良かったわよ。一時はどうなることかと思ったけど」

周りに聞こえないように、ルナマリアはカガリに身を寄せた。
関係者席とはいえ、誰がいるか分からないのだ。
一般席とは区切られ、ゴールの真正面に配置された関係者席は、人々の興奮でざわついていたが、大声で話す話ではなかった。

「ごめん、二人には心配を掛けて」

「本当よっ!もう一回ZAFTとの合コンセッティングしてくれても、お釣りがくるくらいだわ」

ミーアの軽口に苦笑いをしたあと、ルナマリアは帽子をかぶったカガリの目を覗き込んだ。

「でも、またあんなことにならないように気をつけなさいよ」

「うん・・・」

カガリは帽子を深く被りなおした。
アスランと心を通わせたとしても、世間から隠さなくてはならない関係に変わりはなかった。
熱愛疑惑のあったカガリ・ユラだと気が付かれぬよう、カガリは関係者席でもなるべく目立たぬようにしていた。
とはいっても、人目を引く容姿の若い女性が三人もいれば、注目されてしまうのは仕方のないことだった。
恐らくこのブースにいる何人かは、カガリの存在に気付いているに違いなかったが、だからといって堂々と顔を曝すことは憚られた。
アスランのワールドリークでの活躍は喜ばしいものであったが、彼の人気を更に高めてもいた。

「あー待ちきれない!早く始まらないかなあ!」

そこまでスポーツに興味はないが、ミーハーな性格のミーアは、すっかりワールドリーグの雰囲気に染まってしまったようで、先ほどから何度もグラウンドの入り口を確かめている。

「あと十五分でキックオフだから、もうそろそろ選手たちが出てくるはずよ」

「ドキドキね?カガリ」

「・・・」

この巨大スタジアムで、アスランが試合をするなんて、カガリは何だか信じられなかった。
そんな凄い人が、自分のことを好きだと言ってくれることは、もっと信じられない。
決勝戦のチケットを貰った翌日、アスランはヘリオポリス入りする為にプラントを出発した。
だからカガリはあの日以来、アスランとは直接会っていなかった。
今まさに大舞台にいるアスランは忙しいのだろう、簡単なメールのやり取りのみだ。

―――無事決勝に進めたよ。観に来れるか?

―――決勝進出おめでとう。もちろん観に行くからな!

その後アスランがヘリオポリスまでのシャトルのチケットや滞在中のホテルの手配をしてくれるZAFTの関係者をカガリに紹介し、それがアスランとのメールの最終履歴だった。
寂しくないといえば嘘になるけれど、アスランの思いはしっかりと伝えてもらったし、何より彼はこのスタジアムに集う数万人の人を熱狂させることの出来る人なのだ。
そんな才能に満ち溢れた人を好きになった宿命なのだと思えば、全然平気だった。
そう、たとえ隠さなければならない関係だろうと。

「あっ・・」

不意にミーアが声を上げる。
同時に、スタジアムが大歓声に揺れた。
慌てて視線をグラウンドに向ければ、スタジアム中の観客が今か今かと待っていた、選手たちの入場が始まったところだった。
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