SCANDAL
「あの、アスラン・・・」
どうしたらいいものかと、カガリがおずおずとアスランの顔を覗き込む。
「カガリは・・・」
「え」
「カガリは、その双子のきょうだいを見つけたいんだよな」
「う、うん・・・」
そう言って顔を上げたアスランの顔は、先ほどと打って変わって冷静でしっかりしており、カガリはその変化に驚いた。
「向こうはカガリのことを知っているのか?」
「分からない・・もしかしたら自分がその家の本当の子供じゃないってことも、知らないかもしれない」
自分だって、偶然父親の書斎で手紙を見つけなければ、今でも知らないままだったのかもしれないのだ。
その可能性は大いにあった。
「じゃあグラビアアイドルで有名になったって、向こうがカガリを知らなかったら意味ないじゃないか」
「でも二卵性とはいえ、顔が似ているかもしれないし、双子だから絶対何か共鳴するものを持っているはずなんだ」
顔さえ見れば、絶対にピンとくるはずだ。
そう言ってムキになるカガリに、アスランは小さく息を吐いた。
「分かった・・・要はカガリのきょうだいを見つけられればいいんだな」
「あ、うん・・・」
意外にもアスランはそれ以上深く突っ込んでこなかった。
カガリは理論派のアスランに自らの無鉄砲さと甘さを諭されると思っており身構えていたのだが、思わず拍子抜けしてしまった。
「あの、アスラン?」
「いや。ところでカガリ、俺は来月からワールドリーグなんだ」
「・・あ、うん、知ってる」
アスランが唐突に話を変えた。
ワールドリーグはプラント中が熱狂する四年に一度のサッカーの大会だ。
世間でも注目度も、地元チームへの期待度も高く、スポーツ好きのカガリは毎回楽しみにしていた。
しかし今は、はつらつとした楽しみのなかに、胸にチクリと刺すものがあった。
アスランがカガリは友達だと発言したのが、ワールドリーグに挑むザフトチームの会見だったからだ。
アスランと想いを通わせることが出来ても、二人の仲を公表するわけにはいかないことを、カガリは改めて思い出したのだ。
「試合、観に来てくれないか?」
「え、でも・・・お前のファンたちに見つかったら」
「関係者席だから大丈夫だ。エントランスも別だし、安全だろう。一枚で三人入れるから、飲み会に一緒に来てた子たちも一緒に来てもらえばいい」
アスランは一度立ち上がり、リビングに行って戻ってくると、取ってきたチケットをカガリに手渡した。
受け取ったチケットに視線を落とし、そこに書かれた日付を見て、カガリは顔を上げた。
「アスラン、これ」
アスランから手渡されたのは、ワールドリーグの決勝戦のチケットだった。
超プレミアチケットであるが、アスランの所属するザフトが決勝戦に残れるかは全く分からない。
強豪と言われていても、決勝戦までにブロックに分かれたリーグ戦を勝ち抜かなくてはならないのだ。
もしザフトが途中で敗退したら、観に来てくれと渡したこのチケットは全くの無駄になる。
「観に来てくれ」
きっぱりと力強く、アスランは言った。
真っ直ぐなエメラルドの瞳。
そこに彼の思いを見た気がして、カガリは思わず頷いた。