SCANDAL




「カガリ・・・」

俯いてしまったカガリの頬を、アスランがそっと撫でると、カガリはおずおずとアスランに視線を戻した。
不安そうな顔のカガリとは対照的に、アスランはじんわりと心が温まっていくのを感じた。
自分を悲しませるのが嫌だとカガリが言ってくれたことが、嬉しかったのだ。
それはきっと、カガリが自分のことを大切に思ってくれているが故に、出た言葉なのだから。

「カガリ、有難う」

胸に灯った温かみを幸せに感じる一方で、アスランは先ほどのカガリの言葉を頭のなかで反芻した。

「カガリは何の為にグラビアアイドルになったんだ?」

それは以前にもカガリに訊ねた問いだった。
カガリと接していくうちに、どうしてもカガリとグラビアアイドルを目指す野心のある女の子とが結びつかなかったからだ。
そのときカガリは、自分の夢を叶えるためだと答え、アスランもそれ以上具体的な詮索はしなかった。
無理に問いただすことなない、きっといつか教えてくれるだろうと思ったからだが、きっと、今がその時なのだ。

「目的を叶えるための手段ってことは、カガリには何か別の夢あるのか?」

知りたかった。
カガリの夢を、カガリのもっと深いところを。

「えっと・・・」

真摯な光を湛えたエメラルドにまっすぐ見据えられ、カガリは思わず目を逸らした。
まるでアスランの全神経が自分に向けられているようで、それを視界で受け止めるほどの余裕がなかったのだ。
けれども、アスランには話さなくてはいけない。
今まで自分から誰にも話したことのない自分の秘密と、内に秘めた決意を。

「私は、今の家の、本当の子供じゃないんだ」

カガリの口から出た衝撃的な言葉に、アスランが僅かに目を見開いた。

「赤ん坊のころに本当の両親が死んで、今の家に引き取られたんだ。高校生のころ、お父様の書斎にある昔の手紙を偶然見て知ってさ。びっくりしたよ。自分がこの家の養女で、本当は双子だっただなんて」

話しているうちに冷静になったきたカガリがアスランに再び視線を戻すと、案の定、彼は案ずるような顔でカガリを見つめていた。

「心配するな。育ての親のお母様は私が小さいころに亡くなったが、お父様は私のことを本当に可愛がってくれた。見ての通り、私はこんな性格だからよく叱られたけど、本当に愛されていたと思う」

オーブに居たころを懐かしむように、カガリの目が細まる。

「だから最初は落ち込んだり、何で今まで黙っていたのかとお父様を問い詰めたりもしたけど、それもしばらくしたら収まってさ。血がつながってなくたって、お父様はお父様じゃないかって」

父親からの愛情を一身に受け、大切に育てられたからこそ、カガリは自分の出生を素直に受け止めることができたのだろう。
男勝りなカガリが、父親に手を焼かせながらも、大切に育てられている様が目に浮かぶようで、アスランは頬を緩めた。
育ってきた環境のおかげで、今の純粋で真っ直ぐなカガリがあるのだと、アスランはカガリのルーツを垣間見た気がした。

「したら今度は、その手紙に書いてあった赤ん坊のころ別の家に引き取られたという、双子のきょうだいのことが気になりはじめてさ」

「双子のきょうだいは、今何をしているんだ?」

アスランの質問に、カガリは首を振った。

「分からない。お父様の書斎にあった古い手紙には、詳しい引き取り先はおろか、その子の名前も書いていなかった」

「お父さんは何か知っていなかったのか?」

「お父様も私のきょうだいの詳細はほとんど聞かされていないらしくて、ただ双子は男の子で、プラントに住む夫婦に引き取られたということしか知らなかった」

全く消息の分からない、双子のきょうだい。
自分が父親の実の娘ではないことは受け入れても、だからといって自分の血縁に興味を持たずにはいられなかった。
自分の血縁が、しかも双子というどこか因縁めいた存在に、カガリは強く惹かれたのだ。

「それから自分で色々調べてみたりしたけど、手掛かりはゼロ。でもどうしても諦められなくて、カレッジを卒業したと同時にプラントに来たんだ」

「双子のきょうだいを探す為に・・?」

うん、とカガリは頷き、アスランはカガリの行動力に改めて驚かされた。
カガリはたまに誰も想像しない突拍子もない行動に出るのだ。

「来たはいいけど、手掛かりもないし、どうしようって思っているところに、今の事務所の社長に街で声を掛けられたんだ」

――――まさか。
カガリの話を聞きながら、そんな思いがアスランの頭にポツンと浮かぶ。

「最初は断ろうと思ったけど、グラビアアイドルになって有名になれば、双子のきょうだいも私に気付いてくれるかもしれないってそう考え直して、事務所に入ることにしたんだ」

あっけらかんとしたカガリの物言い。
アスランの予感は見事的中だった。
そう、カガリは双子のきょうだいを見つけられさえすれば良かったのだ。
身体の力が思い切り抜ける。

「どうしてグラビアアイドルなんだ・・・」

思わず恨めしげな声が出てしまう。
他に、もっとやりようばあったのではないか。
女優やモデル、グラビアアイドル以外にも、世間に顔を知られる職業はあるのに、どうしてよりによってグラビアアイドルなのだ。
カガリがグラビアアイドルであることは受け入れると決意し、彼女にもそう宣言したはずだったが、どうしてもグラビアアイドルになりたかったのならまだしも、その経緯を聞くと、やはり恨めしく思ってしまうアスランだった。

「だって私はアスランみたいに、有名になれるほど、何か特別な才能は持っていないんだ」

カガリが取り成すように言っても、アスランはしばらく脱力したままだった。
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