SCANDAL
「コペルニクス産のワインって、甘味とコクがあって私好きなんですよね~。ワインは疲労回復にもつながるんですよ~どうぞっ」
「この前の、アメノミシハラとオーブの試合はびっくりでしたね!まさかオーブが負けるなんて。でもこれでZAFTは勝ち点3になったんで、今度のトーナメントはAAとですね~」
所詮顔と身体だけが取り柄の、アホで馬鹿な女。
酷く辛辣な言葉で彼女たちをそう形容したイザークだったが。
今、アスラン達のいるテーブルは、大いに盛り上がっていた。
グラビアアイドルたちの、明るい流れを造りだす見事な会話、あらゆる分野に興味を持ち勉強して得た知識、それでいて男を立てることも忘れないさりげない気配り。
もちろんディアッカやハイネという男性側の盛り上げ上手の存在も大きいが、ほとんどが彼女たちの功績だった。
「イザークさんもほらあ、仏頂面してないで飲んで下さいよ~!せっかく来たんだから勿体ないですよ」
「呑まないなら、ミーアが代わりに・・」
「こら!ミーア、お酒にがっつかないの!本当にごめんなさいね~、ところでイザークさんはお酒よく飲まれるんですか?」
場に乗り切れていない者にも、さりげなく気を遣い、場の空気に溶け込めるよう、時には汚れ役を演じる。
(・・・・・・・すごい、な)
イザークほど露骨ではなかったが、アスランもある種似たような概念を彼女たちに持っていた。
見てくれだけが取り柄の、それも女性という武器をふんだんに使っている女たち。
しかし、実際に対面する彼女たちは、頭の回転が速く、機転もよく効く。
話の引き出しも多彩で、きっと色々勉強もしているのだろう。
ZAFTの迷惑も考えず、きゃーきゃー騒ぐだけのミーハーなサポーターとは天と地の差だとアスランは思った。
グラビア業界のことはよく知らないが、よく考えてみれば相当厳しい世界のはずだ。
容姿と身体だけではない、商品としての自分を売り込むある種の頭の良さや運を味方に付ける才覚が無ければ到底有名にはなれないだろう。
彼女たちはそんな狭き門をくぐり抜けてきた、先鋭たちなのだ。
そんなある種のカルチャーショックを覚えながらも、だからといって、アスランがこの場に馴染み、楽しく女の子たちとおしゃべり出来るかというと、それは全く別問題だった。
こうして冷静に彼女たちについて考えることができるのも、場に溶け込めていないからに他ならない。
「アスランさん、何か食べたいものあります?」
「いや・・・練習後はあまり食欲が無くて」
激しい運動のあとは、腹は減らない。
アスランは事実を述べただけなのだが、隣に座っているハイネに小突かれた。
「馬鹿っ!!こーいうときは、何でもいいから頼むんだよ」
「あはは!事務所の先輩から、ハイネさんってすっごく面白い方だと聞いてたんですけど、本当ですね~!」
「えー!ハイネさん、ルナマリアちゃんたちの先輩とも飲んだことあるんですかあ?!酷いっすよ、何で俺を誘ってくれなかったんですか?」
ディアッカの発言に、場が明るい笑いに包まれる。
「あ!カガリも全然飲んでないっ」
そんななか、盛り上げ役のミーアが隣に座っている金髪の女の子の手元を見て言った。
たしかにカガリと呼ばれた少女の手に握られているグラスは、半分も減っていない。
「本当だ。カガリちゃん、お酒苦手なの?ソフトドリンクにする?」
「あ・・いや。私は・・・」
「カガリはねえ~ちょっと人見知りなのよ。普段は割とよく喋るんだけど」
口ごもるカガリをフォローするように、ルナマリアが言った。
「もしかしたら、アスランさんと似たタイプかもしれませんね~」
「いやいや、こいつは仲間内でも対して喋らない暗いヤツだから、カガリちゃんとは雲泥の差だよ!」
ディアッカの突っ込みに、何度目かの明るい笑いが起きた。
合コンはおおいに盛り上がったが、明日早朝ロケがあるというルナマリアに付き合って、一次会でお開きになった。
大通りでタクシーを拾うと言う女の子たちを店の前で見送り、違う駅から帰るというディアッカたちとも別れ、アスランは一人暗い路地を駅に向かって歩いていた。
合コン会場である居酒屋は、一見さんお断りというだけあって、住宅街の分かりにくい細道にある。
駅までは、少し距離があった。
(疲れたな・・・・)
あまり綺麗とはいえない星空を見ながら、アスランは強張っていた肩の力が抜けていくのを感じた。
一人になるとほっとする。
世間一般から見れば、羨ましがれらる合コンでも、アスランにとってはただ疲れただけの会だった。
もちろん女の子たちが悪いのではない。
自分はもともとそういう性分なのだとアスランもよく分かっている。
(今回だけだからな・・・)
そう改めて決意しながら、ふと視線を前に戻すと、前方に人影が見えた。
人通りの少ない、夜の住宅街。
他に人がいるのが意外だった。
前を歩く人物より、アスランの方が歩く速度が速く、段々と人影がはっきりしてくる。
(あれって・・・)
夜の街並みにぼんやりと光を灯す金髪。
間違いない。
先ほど同じテーブルに座っていた女の子だった。