SCANDAL




「情けない話だけど、俺は嫉妬したんだ」

ひとしきり抱き合って落ち着いたあと、二人はベッドに並んで腰かけた。
穏やかで、ゆっきりとした時間が流れ、わだかまりが解けた今なら何でも素直に話せる気がして、アスランはポツリとかつての自分の心情を口にした。
話さなくてはいけないこと、話したいことはたくさんあったが、まずはカガリを押し倒したことに対して、きちんと謝りたかったのだ。

「嫉妬?」

「君の写真集を買って、その中の君がすごく可愛くて、でもそれを他の男が見てるのかと思うと、悔しくてたまらなくて・・」

カガリの顔を見ることができず、アスランはフローリングの床に視線を向けた。

「それで、何かが切れた。本当にどうかしていた・・・」

深く反省しながら、アスランはほんの少し事実を湾曲した。
カガリが健康的な肢体を、明るい笑顔とともに太陽の下で曝け出していたのはまだいい。
アスランを打ちのめしたのは、明らかに男を誘っているような淫靡な写真だった。
しかし、アスランはそれを口に出すことはできなかった。
正直に吐露してしまえば、優しいカガリはきっと苦しむ。

「ごめん、かっこ悪いよな。それがカガリの仕事なのに」

愛する人の仕事を否定したくはない。
自分の我儘で、カガリの仕事を制限させる、そんな傲慢な男にアスランはなりたくなかった。

「俺、グラビアアイドルの写真集見たの初めてだったんだ、だからちょっと驚いて。でも今はもう免疫ついたから」

グラビアアイドルであるカガリと一緒にいる為には、どうしたってアスランが折れるしかなかった。
本当は免疫なんてついていない。
カガリの艶めかしい表情や身体が、今もどこかで見知らぬ男に舐めるように視姦されていると思うと、叫びだしたい気分だった。
それでもアスランはカガリに気付かれぬよう、ぎゅっと腹の下に力を込め、激情をやり過ごす。
カガリと一緒にいられるのなら、自分の根底から湧き上がる醜い嫉妬に耐えてみせると決めたのだ。

「アスラン・・・」

視線をカガリに戻せば、カガリは困ったような顔をしていた。
自分の職業のせいで、恋人におかしくなったと言われても、彼女にはどうしようもなく、困惑するのは当然だとアスランは思った。

「カガリはやりたくて今の仕事をやっているんだろう?だから、俺のことは気にしなくていい。俺はもう大丈夫だから」

アスランは手を伸ばし、そっとカガリの髪を撫でつける。

「でも、プライベートでは俺だけのカガリでいてくれるか?」

萎縮してしまったカガリを和ます為に、アスランは冗談めかして言ったが、本気の問いかけだった。
グラビアアイドルとしてのカガリがいくら紙面で男に媚を売ろうが、プライベートで全て曝してくれるのは自分だけ。
その優越がどうしても欲しかった。
それさえあれば、自分はグラビアアイドルとしてのカガリに何があっても耐えきれると思った。
そんな必死な思いが根底にあった為、アスランは全く意図していなかったのだが、下手な告白よりもずっと情熱的な発言になってしまい、カガリはみるみる頬を染めた。

「カガリ」

答えを促すアスランに、慌てて頷いたカガリの照れている姿が可愛くて、さらにはこんなカガリの姿は自分しか知らないのだと、早速自分の願いが適っていることに気づいて、アスランはたまらなく嬉しくなり、カガリのに腕を回し、顔を近づけた。

「アッ・・アスラン!」

「何だ?」

アスランはてっきり、カガリが甘い雰囲気に恥ずかしくなったのかと思ったのだが、そうではないようで、カガリは視線をあたふたと宙に投げて言った。

「アスランが私の仕事を気遣ってくれるのは嬉しい。けど、別に私はグラビアアイドルがやりたいんじゃなくて・・・」

照れとあせりからか、順序よく言葉を紡ぐなくなっているカガリの言いたいことをくみ取ろうと、アスランがじっとカガリの顔を覗き込むと、カガリはますます慌ててしまった。

「いや、その・・・グラビアアイドルっていうのは、私の目的を叶えるための一つの手段であって・・・」

そして一気に言う。

「だからその、お前に辛い思いをさせてまで、やりたい仕事なわけじゃないんだっ」

しかし言い方がまずいと思ったのか、ぶんぶんと手を横にふった。

「あっ・・・だからって仕事を適当にやっているわけじゃない。もちろん真剣に取り組んでいるさ!」

カガリの口調はアスランに一切口を挟ませないほどだったが、最後は肩を落として噛み締めるように言った。

「でも、お前を悲しませるのは嫌だ・・・」
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