SCANDAL
「違うって何がだよ。放せって言ってるだろ。放せよ!!」
「聞くんだっ」
アスランは激しく首を振って、逃れようとするカガリの顎を掴んで顔を上げさせた。
彼らしくない荒々しい動作に驚いて、カガリが視線をあげると、こちらを食い入るように見つめる真剣なエメラルドとぶつかった。
その瞳に囚われてしまったかのように、カガリの動きが止まる。
「俺は、確かに君のことを友人だと言った。でも、あれは・・・」
一旦そこで言葉を区切り、アスランは苦虫をつぶしたように顔をしかめた。
「俺は君を守りたかったんだ。その為には他に方法がないのだと思った・・・」
そう、守りたかった。
その為に、アスランはあえてカガリとはただの友人であり何とも思っていないのだと公の場ではっきりと述べたのだ。
「君や、君の事務所に嫌がらせの電話や手紙が殺到したと聞いて、もし君に何かあったらと思ったら、俺は・・・」
カガリを守るためだったはずのその行動は、けれど現実にはカガリを酷く傷つけた。
守るためだったというその言葉全てが、まるでカガリを傷つけたことへの言い訳をしているようで、アスランの心は重くなり、言葉は勢いを失っていく。
「インタビューで言ったことは、本心じゃない。本心なわけがない。でも、ああするしか・・・」
言いながら、こうしてカガリを腕に抱きとめていると、もっと他にやりようがあったのではないかと後悔と自責の念にかられる。
カガリとの関係を否定したとき、まるで自分のなかにある譲ることのできない格までも捨ててしまったような喪失感をアスランは思い出す。
苦渋に満ちて出した決断は、カガリだけではなく、アスランの心もまたひどく傷つけた。
たとえどんなことになっても、あんな風に言うべきではなかったとアスランは深く後悔した。
「俺はずっと君がどうしているか、俺のことを嫌いになってしまったんじゃないかって、ずっとそればかり考えていた」
このままもう会えなくなってしまうのではないかと気が気ではなかった。
ずっと抱えていた不安が蘇ってきたように、アスランはカガリに回した腕に力を込めた。
カガリの口からおもわず吐息が漏れるが、アスランがそれに気づく余裕はなかった。
すがるようにカガリを体の奥に引き込んだままま動かない。
カガリはしばらく何も言わず、アスランその間ずっと恐怖と不安に駆られながらカガリの反応を待った。
「アスラン・・・」
待つのに耐えきれなくなったアスランが何か言おうとしたとき、先ほどまではアスランを突っぱねようと抗っていたカガリの手が、そっとアスランの洋服の裾を掴んだ。
「私のほうこそ、ごめん・・・、ずっとお前を無視していて」
か細い声に謝罪に、アスランの身体が僅かに揺れたのを、カガリは感じた。
一日に何通も届いていたメールと着信。
アスランに心を寄せながらも、彼とはもう関わってはいけないのだと、頑なにそれらを無視していた自分は、なんて馬鹿だったのだろうと、今さながらにカガリは実感する。
彼の真意に触れる機会は、すぐそこにあったというのに。
表面上いくらアスランを拒絶したとことで、好きな気持ちは消しきれないほど膨らんでいたのだから、カガリの努力は何の役にも立っていないのだと、何故気が付かなかったのか。
「カガリ・・・」
アスランが腕の力を緩め、二人の間に隙間をつくり、カガリの顔を伺う様に覗き込む。
その顔のあどけなさに、嘘偽りはなかった。
こんな頼りなげな一面を持っている彼を、痛めつけてしまったのだと、カガリの心が痛んだ。
「嫌いにならなきゃって、ずっと自分に言い聞かせていた。けど、お前のこと嫌いになんてなれるわけない」
アスランの素直な心に触れて、自分を律していた柵がゆっくり解けていく。
純粋な想いだけがそこにあった。
「私、おまえのことが好き」
好きという言葉を発した途端、心臓がきゅっと縮小し、急に駆け足になった。
それでも、カガリはアスランから目を放さなかった。
「アスランは?私がただの友達じゃないなら、じゃあ・・・」
何だ?と形作るはずだった唇がいきなり塞がれる。
驚愕に跳ねるカガリの身体を深く抱き込んで、アスランは夢中で口付けを続けた。