SCANDAL




確かに自分はどれだけ非難されても仕方ない、最低なことをした。
その自覚はあるし、どれだけ罵倒されても、非難を全て受け入れ、誠心誠意に謝り続けようと決意もしていた。
しかし、まるで女なら誰でもいいような、そんな言い方をされるとは思ってもみなかった。
カガリ以外に愛しいと思う女性など存在しないアスランにとって、それは全く予想外の場所からの一撃だった。
カガリから発せられるであろう罵声に全て耐え、彼女に分かってもらうまでひたすら謝罪をしようと思っていたアスランだったが、思わず抗議するような口調になってしまう。
心のどこかでしまったと思ったが、もう遅かった。
何故カガリがそんなことを言うのか、その理由がどうしても知りたかった。
アスランが触れたいと思うのは、目の前に居る女性だけなのだから。
しかし、カガリはふいとアスランから目を逸らした。

「どうしてって、現にそうじゃないか」

「現にって?」

アスランはわずかに首を傾けた。
知らず身体が前のめりになる。
現にとは、一体どういうことだ。
現にと表現できる事例など、アスランは持っていないはずだった。
どうも、会話が噛み合っていない。
ドクドクと心臓を高鳴らせながら、息を詰めてカガリの言葉を待っていたアスランに、カガリは吐き捨てるように言った。

「好きじゃないんだろう」

「え?」

「好きじゃないもんな、私のこと。だからだろう?」

皮肉げに笑おうとした唇は、しかし途中で引き結ばれ口角が下がる。
瞬間、琥珀色の瞳に涙が浮かんだ。

「カガリ」

「もういい。帰る」

涙を隠すように頭を伏せ、ベッドから起き上がろうとしたカガリの肩を、アスランはしっかりと掴んだ。

「カガリ、待て」

「放せよ。もうここに居たくない。お前の顔なんて見たくもないんだよ」

辛辣な言葉がアスランの胸をえぐる。
しかしカガリも、そこで肩を落とし、身体の力がを抜いた。
細い肩が震えている。
泣いているのだ。

「カガリ・・・?」

「もう帰してくれよ。好きじゃないのに、優しくしないでくれ」

「カガリ、何を言っているんだ?」

「ザフトのエースのお前から見たら、グラビアアイドルなんてただの遊び要員かもしれない。でも・・・」

顔を伏せたまま、たどたどしく言葉を紡ぐカガリを、アスランはじっと見つめた。
肩を掴んだ掌から、カガリの震えと体温が伝わってくる。

「でも、私はそんな割り切れるほど器用じゃないんだ」

そう言って、カガリはまた泣き出した。
その嗚咽を聞きながら、アスランはゆっくりと自分のなかでカガリの言いたいことを読み解いていく。
この噛み合わなさの訳がゆっくりと一つのパズルとなって浮かび上がってくる。

「カガリ・・・もしかして君は、俺が君を軽んじていると、そう言いたいのか?」

カガリは答えなかったが、それは無言の肯定だった。
アスランのなかに、憤りと悲しみが広がってく。
誰よりも大切な人に、アスランの思いとは全く正反対の勘違いをされているだのだ。
一体どうして。
カガリの誤解を理不尽に思う一方、彼女にそんな風に思わせてしまった自分にも腹が立った。

「何故そんなことを思うんだ?そんなはず、あるわけないだろう」

自分の不甲斐なさへの苛立ちで、アスランがつい詰問口調になってしまうと、負けず嫌いのカガリが恨みがましい目を向けてきた。

「お前が自分でそう言ったんじゃないか。どうして私が怒られなきゃいけない」

琥珀色の瞳の奥で、涙が揺れている。

「はっきりと皆の前でそう言ったじゃないか。私は事実を言ったまでだ。確かにテレビ越しで言われるまで、お前の本心が分からないような愚鈍な女だが、面とむかってあったときに優しくすれば、素直にお前に従うと思っているんだったら、それは間違いだ」

溜めていた感情を爆発させるように捲し立てるカガリを、アスランは想いきり腕の中に収めた。

「辞めろ!放せよっ・・・他の人のところへ行けばいいだろう」

「違う。カガリ、違うんだ」

身じろぎするカガリの身体を腕に収めたまま、アスランは叫ぶように言った。
カガリが何を言っているのか。
カガリの言動の理由に、ようやく気が付いたのだ。
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