SCANDAL




(あ・・・)

アスランの言葉に、カガリの胸がチクリと痛んだ。
先ほどインタビューが思い出される。

――彼女のことは友達にしか見れませんし・・

淡々と語っていたアスランの姿。
よどみなく語られるその言葉は、カガリの胸を深く抉っていった。
カガリの表情が陰ったことには気づかずに、アスランは再び詫びた。

「ごめん、嫌だよな。俺のベッドになんか寝かされて。でも、他に場所がなかったんだ」

「別に、お前の家にまで運んでくれることは無かったのに。放っておいてくれてよかったのに」

気を持たせるようなことをしない方が、親切というものなのだから。
しかし、一方でアスランが病人を放っておくような無責任な人ではないことも、カガリは充分に知っていた。
知っていながら、わざと意地の悪い言葉を投げつけてしまうは、インタビューで受けた心の傷がジクジクとカガリを苦しめるからだ。
この傷の痛みを思えば、嫌味のひとつくらい言ってもいいはずだった。

「道端にか?そんなことできるはずないだろう」

「どうだか」

予想通りのアスランの反応もまた、カガリはすげなく一蹴した。
しかしアスランが傷つくと分かっていて突き放すような態度をとったのに、いざ項垂れた彼を目にすると、どうしようもなく胸が痛むのは、彼への未練からだった。
ブラウン管越しであれだけはっきりと振られているのに、いまだに未練があることが悔しくて、琥珀色の瞳がジワリと潤んだ。
その様子を見つめていたアスランは、ためらいがちに本題を切り出した。

「カガリ・・・この間は本当にすまなかった」

この間のこと。
間接的な言い方だったが、それがアスランの部屋で襲われかけたことだと、瞬時にカガリは悟った。
カガリは目を覚ましてから幾度となくアスランに謝罪されたが、彼が本当に謝罪したかったのは、このことなのだろう。

「君の心を傷つけた。謝ってすむことじゃないと分かってはいるが、本当にすまない。最低なことをしたと思っている」

(本当に、最低だ・・)

カガリは心のなかで頷いた。
無理やり押し倒したという行為はもちろん、アスランは好きでもない女を抱こうとしたのだ。

―――サッカー選手なんてバイタリティの塊なの

アスランと仲良くなり始めた頃。
アスランのチームメイトが浮気をしていることに、ルナマリアはそうフォローをしていた。
バイタリティのあるサッカー選手は、その分女好きでもあるのだと。
そのときは下世話な話だとカガリは思ったが、今ならルナマリアの言っていることが理解できた。
なにせ身をもって知ったのだから。

「ずっと謝りたくて、君を待っていた。付け回すようなことをしてごめん。電話もメールも繋がらなかったから」

それも当然だがとアスランは小さく付け足すアスランは、心底反省した様子だったが、カガリはその謝罪を受け止めることは出来なかった。
アスランは別にカガリのことを好きなわけではない。
ただ女性を抱きたくなったときに、身近にグラビアアイドルがいたから手を出しただけだ。
それが思いのほか大きな事態に発展してしまい、サッカー界のエースである彼は困ったのだろう。
カガリが売名の為に、このことを週刊誌にリークでもしたらと焦っているのかもしれない。
その前に先手をうち、謝罪をして、無かったことにしようとでもいうのか。

「どうかしてたんだ。あんなことはもう二度としない。約束する」

不器用なアスランなりに必死に、いかに反省しているかを切々とカガリに伝えていたつもりだったが、カガリから反応が返ってこないことに、不安を覚えたのだろう。

「カガリ・・・」

伺う様に彼女の名を呼ぶ声には、懇願が色濃く滲んでいた。
その声に胸が痛くなるも、カガリのアスランに対する壁は既に厚く固くなっていた。

「別に気にするな。よく知らないけど男にはそういうときがあるんだろう」

「いや、その・・」

「大丈夫だ。別に勘違いとかしていないから安心しろ」

「え?」

懇願の滲んでいた、アスランの瞳が初めて揺れた。

「男は好きでもない女を抱けるんだろう。分かっているから、もういいよ」

カガリの言葉にアスランは目を見開いた。
その瞳に灯っているのは、カガリに会ったからずっと下出にでていたアスランの今日初めて見せる激しさだった。

「カガリ、どうしてそんなことを言うんだ。確かにこの前のことは俺が悪かった。だけど、俺が好きでもない人を抱けるだなんて、そんなこと言わなくたっていいじゃないか」



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