SCANDAL




ひんやりとした涼しい風が心地良い。
さっきまではうだるような外の熱さの中にいたのに、いつのまに快適な空間に移動したのだろう。
なんだか疲れた。
この心地よさに、もっと浸っていたい。
そう思って、無意識に寝返りを打った瞬間、カガリは勢いよく瞼を開けた。
帰宅途中だった自分が今、柔らかい布団の上で横になっているはずがないことに気が付いたのだ。

「えっ・・・」

起き上がらずに、首だけで室内を観察する。
空調の効いた涼しい部屋は、どう見ても自分の部屋ではなかった。
無駄なものは一切無く、きちんと整頓された部屋。

(ここ、どこだ・・・)

「カガリ?」

ぼんやりと部屋を見回していたカガリだったが、聞き覚えのある声に、意識が覚醒する。
まさかと思って視線を向ければ、思ったとおりの人がドアのところに立っていた。

「目が覚めたのか・・良かった」

そう言って、氷とミネラルウオーターを持ったアスランが、安堵の表情を浮かべてこちらにやってきた。

(え・・どうして?何でアスランが・・・)

状況が全く把握できなくて、カガリはせめて起き上がろうとしたのだが、身体に力が入らず、視界が揺れた。
その様子を見ていたアスランが慌ててサイドテーブルに水と氷を置くと、ふらつきそうになるカガリの上半身に手を添えた。

「無理して起き上がらなくていいよ」

「わたし・・・」

「道で倒れたんだ。恐らく貧血だと思うけど、覚えていないか?」

「あ・・・」

そう言われて、先ほどの記憶が蘇る。
駅でアスランを見つけて、慌ててそこから逃げたものの、結局捕まって。

「俺が炎天下の中、君を走らせたから・・・」

エメラルドの瞳に影が走り、アスランは目を伏せた。
そうすると、彼の頬に長く濃い睫の影が落ちる。

「ここは俺の家だ。君の家の住所が分からなかったし、病院につれていって騒ぎになるのも問題だと思ったから、タクシーを呼んでここまで君を連れてきた」

カガリの思ったとおり、やはりここはアスランの部屋だった。
確信が持てなかったのは、アスランのマンションは一部屋ずつ独立した造りになっていて、カガリが今までアスランの寝室に足を踏み入れたことがなかったからだ。

「勝手に連れてきたりして、すまなかった。でも、誰にも見られてないから、そこは安心して大丈夫だ」

カガリを安心させる為にアスランは僅かに微笑んだが、再び顔を伏せた。

「ごめん、嫌だよな。俺のベッドになんか寝かされて。でも、他になかったから」

「アスラン・・・」

「それに・・何もしていないし、しないから安心しろ」

「え・・・?」

アスランが何を言いたいのか分からず、カガリが彼を見つめると、視線に気づいたアスランがいったん顔をあげ、しかし再び気まずそうに視線を逸らした。

「だから・・・必要以上に、君に触れたりはしないという意味だ」



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