SCANDAL





カガリの受難はそこで終わらなかった。
数日後に、アスランとのことが週刊誌にスクープされたのだ。
アスランのマンションに遊びにいったところを撮られたらしい。
マスコミや各関係者への対応に追われる事務所に、報道陣やファンが詰めかけ、一時は騒然となった。
事務所に多大な迷惑を掛けたことに、カガリは完全に萎縮したが、マネージャーいわく、ある意味これは好機でもあるらしい。
サッカー界のスーパースターであるアスランとのスキャンダルは、グラビア界では名を知られていても世間的には無名であったカガリの知名度を一気にあげたのだ。
ある意味、痛み分けといったところか。
しかしだからといって、カガリにとってはラッキーだったと割り切れるはずもなかった。
アスランとは、もう何の関係もないのだ。
知名度をあげることは、カガリがグラビアアイドルになるときに決めた一番の目標だったが、既に冷えきった自分たちの関係のことで、目的を達してしまうのは、なんとも惨めなことだった。
加えてカガリはアスランのファンから執拗な嫌がらせを受けることになった。
嫌がらせや脅迫文だけなら、無視もできたが、アスランのファンはどうやら一般人だけにとどまらなかった。

「ちょっとカガリ、どうしたの?!」

撮影のスタジオの楽屋で、びくりと身体を震わせたカガリに、ルナマリアは思わず声を上げた。
カガリの手には、今日カガリが着用する予定の水着がある。
まさかと思い、彼女はそれを奪い取ると、目の前に掲げた。

「ひっどい・・・」

思わず、そんな声が出る。
明るい色の水着は、刃物でズタズタに切り裂かれていた。
衣装はショップから直接スタジオに運ばれる。
同業者かスタッフか、明らかにこのスタジオにいる者の仕業であった。

「カガリ、気にしなくていいわよ。スタイリストさんに言って、代わりの衣装を貰ってくればいいのよ」

「ルナ・・・」

関係者からと思われる嫌がらせは今日で既に三回目だった。
ロッカーにいれていたはずの荷物が捨てられていたり、化粧道具が隠されたり。
顔も知らない一般人からの非難中傷は無視できても、関係者からの嫌がらせは心身ともに非常にこたえるものがあった。
仕事場ですれ違う全ての人に、疑念と恐怖を持ってしまう。

「こんなことして馬鹿みたい。自分に魅力がないからって僻んでるだけじゃない」

ミーアやルナマリアがそうやって励ましてくれるが、どん底まで下降した気分を持ち直すことは難しかった。

「さ、代わりの水着選びに行くわよ!うんと可愛いの」

そう言って、ミーアがカガリの腕を掴んだときだった。

―――――続いては、来月三日からワールドリーグに挑むザフトの記者会見です。

楽屋のテレビから、そんなニュースが流れてきた。
思わず、三人の動きが止まる。

(アスラン!)

画面には会見場のステージに座っている選手たちの様子が映し出される。
大勢の選手がいるにも関わらず、カガリの目は瞬時に、アスランに吸い寄せられた。
選手団の真ん中よりやや左の位置に彼は腰掛けている。

(アスラン・・・)

監督と選手がそれぞれ抱負を語っていくなかで、カガリはアスランから張り付いたように目が離せなくなった。
濃紺の髪、エメラルドの瞳。
久しぶりに見る、彼の姿だ。

(変わっていない・・・)

「もちろん、出場するからには優勝を目指します」

インタビューに答える彼の低声に、カガリの胸が熱くなる。

「ところで、ザラ選手は先日熱愛報道がありましたが、その件にかんしてお話をお聞かせ願えますか?」

大舞台への気合を述べる選手団だったが、インタビュアーが場にそぐわない無粋な質問をした。
画面を見つめていたカガリの身体に緊張が走ったが、画面の向こうのアスランはさして動揺した様子もないようだった。

「あれは、全くの事実無根です。あの日はたまたま友人たちを家に招いていただけで、彼女もその一人だったんです。私は彼女のことを友人以上には見れませんし、彼女も私のことを何とも思っていないと思います」

淡々と質問に答える。

「互いに何の感情も持ってはいませんので、あのように書かれて正直戸惑いました。それに今はサッカーに専念したいので、恋人は必要ありません。彼女も含め、女性とプライベートで会うことはなるべく避けようと思います」

「ザラは堅物だからなあ」

横から口を出したハイネの軽口に、会場が湧く。
その後二人の選手が試合への抱負を語ると、番組は異なる話題のニュースに切り替わった。
会見の様子を画面から、カガリと同様息を詰めて見守っていたルナマリアだったが、一段落つくと、ふっと緊張を解いた。

「アスラン・ザラの言い方は気に入らないけど、結果論としては、まあ良かったんでしょうね。これでカガリも嫌がらせを受けることはなくなるし」

明るくそう言って、カガリを振り返ったルナマリアの目が見開かれた。
隣にいるカガリが、静かに涙を流していたからだ。

「ルナ・・・私変だ・・・どうしてこんなに、涙が出るんだ?」

頬に伝わる涙に、そっと指先で触れ、泣いてるのだと自分で確認してから、カガリは尋ねた。
何故だろう。
自分でもどうして泣いているのか分からないのに、涙か後から後から止まらなかった。
そんなカガリの様子をしばらく見つめてから、ルナマリアは冷静に言った。

「・・・・・それは、カガリが今の状況から解放されるより、身の安全より、アスラン・ザラのほうが好きってことよ」





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