SCANDAL



「どういうことですか?」

アスランは眉をひそめ、聞き返した。

「マスコミとお前のファンが、彼女の事務所に押し掛けているそうだ。今朝、うちの若い者に見にいかせた」

「え・・・」

「うちのクラブチームも今朝から電話が鳴りっぱなしだ。お前に裏切られたのだの、ファンを辞めるだの、文句たらたらの電話ばかりだ」

「そんな・・・!俺はサッカー以外でファンに義理立てするような義務はないはずです」

サッカー界のエースだと、何かと注目されるアスランだが、芸能人でもなんでもない。
俺を何だとおもっているのだろうと、アスランはファンの身勝手さに激しい憤りを感じたが、マネージャーは苦虫をつぶしたような顔で言った。

「君の言っていることは確かに正論だがね、ファンはそう思っちゃいないんだよ。熱狂的なファンが何をするか考えてみろ。自分の恋人を取られたと思っているんだぞ。君はインターネットの掲示板なんて見ないとおもうがね。直視できないくらい汚い、カガリ・ユラへの誹謗中傷で溢れているぞ」

「そんな・・・・」

言葉の出てこないアスランを見やってから、マネージャーは足元に置かれた段ボールから何かを取り出し、それを机の上に投げ落とした。

「このままじゃ、絶対に彼女は酷い目にあう。こんなものを送ってくる馬鹿もいるんだぞ」

「な・・・」

机の上に投げ出された物体に、アスランは絶句し、背中に冷たいものを感じた。
おぞましさに泡立つアスランの目線の先にあるものは。

―――カガリ・ユラなんて、殺してやる

そう書かれ、何本もの釘が刺された藁人形だった。

「理不尽だと憤る君の気持ちもよく分かる。だが、世の中なんてそんなものだ。君は自分のことを客観的に見れないという意味では、自覚が足りない。恨むのなら、自分の容姿を恨むんだな」
















*****








リリリリ・・・という聞きなれた電子音が、カーテンの引かれていない窓から、朝日の差し込む部屋に響く。
その乾いた音に、カガリは重たい瞼をゆっくりと開けた。

「ん・・・」

目覚めて最初に感じたのは、身体と髪のべたつく不快感だった。
それでカガリは昨晩は化粧も落とさず、シャワーも浴びずに寝てしまったことに気が付いた。
パジャマに着替えてもいなかった。
リラックス出来ずに取った質の悪い睡眠で、カガリの身体は固く重かったが、毎日の習慣に従って、そのけだるい身体を無理やり起こした。
今日は月刊誌の撮影だ。
30分もしたら、家を出なくてはならない。

「・・・・・・」

顔を洗うときも、なるべく鏡を見ないようにした。
きっと酷い顔をしているのと、分かっていたからだった。
昨晩はアスランのマンションから帰ってくると、散々泣いて、そのまま泣き疲れ寝てしまったのだ。
それで瞼が腫れていないはずがなかった。



一晩寝たところで、心の傷は到底癒えなかった。
アスランに身持ちの軽い女だと思われていたことが、カガリの心を打ち砕いていた。
確かにグラビアアイドルは、世間一般から見たらそんな風に見られるかもしれないし、実際そのような人だっているだろう。
けれど、カガリのアスランへの思いは本物だった。
真剣に彼のことが好きだった。
だからこそ、彼に自分という人間をそういう風に受け取られていたことに、激しいショックを覚えたのだ。
携帯電話に不在着信やメールがいくつも残っていたが、確かめる気力もなかった。
今から仕事だと、頭を切り替えなくてはいけないのに、カガリの思考はどこか靄がかかったままだった。
電車に乗っているときも、駅へ歩いているときも、周りの景色は遠く、立っているのに、その感覚がない。
夢遊病のように、意識と身体が隔離されてしまったようだった。

「カガリ!なんなの、それ!」

「え・・・」

楽屋に入ったカガリを見るなり、ルナマリアが悲鳴のような声をあげ、それでやっとカガリの意識が浮上した。
ルナマリアが驚くようなことが、何か自分にあるのだろうか。
そんな不安をかかえ、ルナマリアの食い入るような目線の先、自分の胸元に視線を落ととすと、カガリは絶句した。
Tシャツから見える肌に、赤い痕がいくつも散っていた。



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