SCANDAL



撮られた写真は、カガリが初めてアスランのマンションに来て、二人でスーパーへ買い出しに行ったときのものだった。
アスラン・ザラ、熱愛発覚!!という大きな見出しの下、文字を読む気にもなれなかったが、「ラブラブ自宅デート」「まるで若夫婦のよう」等、下世話な単語がちらちらと目に入る。
当人たちのプライバシーなんてお構いなしの、邪推がおおいに入った、読者の好奇心を掻き立てるように書かれた記事だった。

「・・・・それはもちろん、君だよな?」

週刊誌を見つめたまま黙りこくってしまったアスランを、マネージャーはしばらく見つめ、記事に全て目を通せる時間を与えてから、そう尋ねた。
それは、アスランにとって心地いいとは決して思えない尋問の始まりの合図でもあった。
クラブチームの事務所の小会議室には、マネージャーとコーチが並んで座り、アスランは机を挟んで、マネージャーの正面に腰かけていた。

「はい・・」

どんなに不明瞭な写真でも、自分自身を間違えるはずがない。
アスランは正直に頷いた。

「いつからだ?」

アスランの返答に、マネージャーは重いため息をついたあと、諦めたように問いかけた。

「え?」

「いつから、カガリ・ユラとそういう関係なんだ?」

マネージャーが声音を強めた。

「・・・・ここ一か月くらいです」

そういうとは、どういう関係のことを指すのだろうか。
と、ひねくれた考えも浮かんだが、アスランはカガリと親しくなってからの期間を素直に答えた。
マネージャーたちには迷惑を掛けた、あるいは掛けてしまうのだ。
反抗心よりも、申し訳ないという気持ちのほうが先だった。
アスランの答えに、マネージャーが再び溜息をつく。

「まさか君が、週刊誌にスクープされるとは思ってもみなかったよ」

「・・・・申し訳ありません」

「世間一般じゃ、朴念仁と言われている君がね・・・・」

アスランは何も答えることが出来ず、部屋には再び沈黙が重く漂う。
すると、今までマネージャーの隣で黙っていたコーチが不意に口を開いた。

「最近の不調も、この件に関係があるのか?」

「いいえ。彼女は関係ありません」

アスランは即答した。
俯きがちだった顔もあげ、はっきりとコーチの顔を見つめる。
今までの受け答えとは全く違う反応は、コーチやマネージャーというアスランの周辺にいる人達に、カガリの印象を悪くしてはいけない。
だって、カガリとはこれからずっと関わっていくのだから。
そんな無意識な思いがとらせた反応だった。

「・・・そうか」

信じてもらえたかは定かではないが、アスランのまっすぐな瞳に、コーチは静かに頷いた。

「それにしても、よりによってグラビアアイドルなんてね・・」

少しの間を置いて、再びマネージャーが口を開く。
隠すことなく呆れを滲ませた口調だった。

「スクープされるにしても、学生時代からの幼馴染とか、そういう子なら純愛っぽくて、まだ良かったんだけど。君は真面目な優等生というイメージが売りの一つでもあるんだから、全くグラビアアイドルとの熱愛なんて・・マイナスにしかならないよ」

世間のイメージだの評判だの繰り返すマネージャーを、アスランは思わず睨み付けるところだったが、寸でのところで何とか踏みとどまる。
それでも表情が歪むのは隠せなかった。
グラビアアイドルでも、カガリはカガリだ。
自分自身のイメージなんて、どうでもいい。
現金な話ではあるが、自分でも、グラビアアイドルであるカガリをほんの数日前はまではあれほど嫌悪し嫉妬していたというのに、今では全く気にならなくなっていた。

しかしアスランの反抗的な顔に気付いているのかいないのか、マネージャーが素知らぬ顔で今後の対応を述べた。

「まあ、マスコミには友達のうちの一人だと返答しよう。写真を撮られた日は、大勢の友人を招き、君の家でホームパーティーをしていた。それでいいな」

「ちょっと待ってください!」

アスランの話も聞かず、勝手に出されたマネージャーの結論に、アスランは思わず声を上げた。

「カガリは友達ではありません。俺の大切な人なんです!」

なんと言おうか考える前に、その言葉が口から出た。

そう言ってしまうと、まるでずっと曇っていた空が晴れ渡るような、そんな気がした。


「・・・・出来れば、そうやってちゃんと・・・、世間に報告したいと思っています」

熱くなってしまった自分に気付き、アスランは椅子にきちんと座り直すと、口ごもりながらもそう言い切った。
声は小さかったが、胸のつかえがとれたように、気持ちは晴れ晴れとしていた。
悶々と悩み続けていた自分が馬鹿らしい。
好きなのだ。
カガリのことが。
職業や立場も関係なく、カガリその人が。
そうやって吹っ切れてしまえば、悶々と悩み続けていた自分が馬鹿らしく思える。

「私が世間でどういう評判なのかは、よく分かりませんが。俺はサッカー選手であって、観客を沸かせるようなプレイをすることが使命です。その為に、私は彼女が必要なんです」

カガリは、サッカー選手であるアスランを、支え、輝かせてくれる人なのだ。
そのことを分かってもらえれば、ファンだってカガリを認めてくれるはずだとアスランは思った。
そもそも、サッカー選手だって恋愛も結婚もする。
アスランは、いけないことは何もしていないのだ。
その思いに後押しさえる形で、アスランははっきりと自分の意思をマネージャーとコーチに告げた。

「アスラン、そのまっすぐで誠実なところは、君の美徳だと思うがね」

しかしアスランの決意のこもった言葉を、黙って聞いていたマネージャーだったが、アスランの言葉が終わったあとも、煮え切らない様子だった。
わざとらしく苦笑すると、子供に説明するような口調で言った。

「言い方を変えよう。君のせいで、カガリ・ユラが外を出歩けなくなったらどうする?」


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