SCANDAL
それから数日経っても、カガリからは何の音沙汰もなかった。
アスランから何度も電話とメールをしたけれど、電話はつながらず、メールの返事も返ってこない。
強姦まがいのことをしたのだ。
簡単に許されるなど、アスランも思ってはいない。
だから、誠心誠意でカガリに謝罪したかった。
許してもらえるのなら、自分に出来ることをなんでもするつもりだった。
しかし、繋がっていた糸がぷっつりと切れてしまったように、カガリとの連絡経路が途絶えてしまった。
それはまるで、自分たちの関係までも切れてしまったようで、アスランの心を恐怖で泡立たせる。
「カガリ・・・」
アスランは、ずっと沈黙したままの携帯電話を握りしめた。
まるで数日前の立場が逆転してしまったようだった。
カガリの連絡をことごとく無視していたアスランが今、祈るようにカガリからの連絡を待っている。
あれだけ鬱々としていたカガリへの怒りも、綺麗さっぱりなくなり、今はどこかに行ってしまった。
今はただひたすらカガリと連絡が取れることを願うのみ。
だけどもし、カガリから二度と連絡が来なかったら・・・・
アスランの心が、そんな恐怖に掴まれる。
アスランがカガリを無視していたのは、子供じみた独占欲からで、完全にアスランに非があったけれど、今回は違う。
アスランを拒絶するカガリが正しいのだ。
自分を襲おうとした男と連絡を取ろうとするほうがおかしい。
もしかしたらカガリは、アスランからの着信やメールに怯えているかもしれない。
「これって、ストーカー・・・なのかな」
実は昨日今日と、アスランはカガリの最寄駅に向かい、改札でずっと人の波を観察していたのだ。
会いたくてたまらない人を探すために。
携帯電話が駄目なら直接会いに行こうと思って、けれどカガリの自宅を知らないアスランは、最寄駅で張ることにしたのだ。
結局カガリを見つけることはできなかったが、もし見つけたところで、彼女を怯えさせるだけだったのかもしれない。
しかし、それでも・・・
アスランはカガリに会いたかった。
会いたいのだ、どうしても、彼女に。
「カガリ・・・」
カガリに見限られていたら、どうしよう。
連絡を寄越さなかったあげく、いきなり襲いかかったのだ。
そうなっても、おかしくない。
しかしそれでも、アスランはカガリを諦めることは出来なかった。
カガリがグラビアアイドルで、伸びやかな肢体を曝け出していたって、そんなのはどうでも良い。
カガリに、会いたい。
今は、それだけをただただ祈って。
アスランが膝に顔を埋めたそのとき、だった。
部屋に響く電子音。
握りしめた携帯電話からだった。
「・・・・!!」
慌てて携帯電話を開き、次いでアスランは肩を落とした。
画面に表示されている名前は、クラブチームのマネージャー。
期待に膨らんだ胸が一気にしぼむ。
もしかしてと思った分、落胆は大きい。
「・・・・・・」
しかし、アスランの胸の内など考慮することもなく、電話は鳴り続ける。
アスランは無視しようとも思ったが、申し渡された休暇が明日切れる為、その件で何かマネージャーから連絡したいことがあるのかもしれない。
仕方なしに、アスランは通話ボタンを押した。
「・・・はい」
「アスラン、今自宅にいるか?」
聞こえてきたマネージャーの声は、どこか切羽詰っているようだった。
「そうですけど・・・」
「今、君の自宅に車を向かわせている。すぐにクラブチームの事務所までくるんだ」
「事務所・・・?」
アスランは、思わず眉をひそめた。
練習グラウンドではなく、何故事務所なのだろう。
「・・・何かあったんですか?」
受話器から伝わる不穏な空気に、アスランは怪訝気に尋ねた。
「アスラン、君の熱愛報道がスクープされた」
マネージャーが、そう一息に言った。
「アスラン・ザラ熱愛発覚。お相手は、グラビアアイドルのカガリ・ユラ。それが明日発売の週刊誌のトップ記事だ」
言葉の出ないアスランに、受話器の向こうでマネージャーが有無を言わさぬ口調で畳み掛けた。
「いいな。すぐに事務所にくるんだ。今後の対策を話す。分かったね」