SCANDAL



いきなりソファに押し倒されて、キスをされた。
会ったときから、アスランの様子はおかしかったが、今カガリの上に圧し掛かっている彼は、いつもの彼ではなかった。
首筋を吸われて、服の中に滑り込んできた彼の骨ばった手を素肌に感じた瞬間、恐怖が身体を突き抜けて、気が付いたら自分でも驚く位の大きな悲鳴をあげていた。
怖い。怖い。
頭のなかはアスランに対する恐怖でいっぱいで。
だけど、次に彼の口から出てきた言葉に、カガリの頭の中は真っ白になった。

他の男にもさせているって・・・・

何を?

同時にTシャツもたくし上げられて、それで合点がいった。
アスランは、私が他の男の人と寝ていると思っているのだと。
そう悟ると、恐怖でいっぱいだった思考は瞬く間にクリアになった。

グラビアアイドルという職業は、確かに世間一般的にはいかがわしい目で見られるかもしれない。
グラビアアイドルというだけで、寄ってくる男も大勢いる。
どうしたって、誤解されやすい職業だ。
それは、仕方のないことだとカガリも割り切っていたけれど。
でも、アスランは・・、そんな人たちとは違うと思っていた。
グラビアアイドルとは関係ない、カガリ個人を見てくれているのだと、そう思っていた。

――――だけど、それは・・・


「・・・・いっ!」

瞬間、胸元に激痛が走った。
アスランが噛みついたのだ。
予期していなかった、あまりの痛みに、身体が硬直する。

でも、本当に痛いのはその奥だった。

アスランだけだった。
アスランを前にしたときや、アスランのことを考えたときの胸の動悸も、顔の火照りも。
アスランことを考えたときの、恥ずかしさも、ときめきも。
別れたばかりなのに、すぐにまた会いたいと思う気持ちも。
それらは全て、アスランに出会って初めて、カガリが知ったものだった。


けれども、アスランはカガリのことを、他の男の人と容易く寝るような女だと、思っていたのだ。


「ふ・・・」

大切だった。
アスランを想う気持ちは、ほんとうに愛おしくて。
カガリの大切な宝物だったのだ。
アスランに分かってもらっていなかったことはもちろん、アスランを想う自分の心が踏みにじられたような気がして、カガリの目から涙が溢れた。
鼻の奥がつんとして、後から後から音もなく涙が零れ落ちる。
アスランに何をされているのか、もうどうでもよかった。
絶望は深く、抵抗する気力はもちろん、話をする気力も既に無かった。
瞳を閉じて、視界とともに思考も遮断する。
ただ、ひたすら涙を流しながら。


ふいに、アスランの動きがとまった。

「・・・・・?」

傍若無人にカガリの肢体をまさぐっていたアスランの手が、急に止まったことに、数拍置いて気が付いたカガリがゆっくりと瞼を明けると、驚いたようにこちらを見つめるエメラルドの瞳とかち合った。
わずかに見開かれたその瞳に、先ほどのギラギラした異様な光は、既に無く。

「あ・・・・カガリ・・・・」

掠れた声でカガリの名を呼んだアスランは、戸惑い、呆然としているようだった。
まるで彼自身も、現状を咀嚼できていないような、そんな様子だった。

「あ・・・え・・・」

言葉を紡ごうとしているのか、しかし彼の口からでるのはうわ言のような、意味をなさない言葉。

「あの・・俺・・・・・」

ふいに身体が軽くなった。
アスランが、体重をかけていた身体をこわごわと起こしたのだ。

「カガリ・・・あの・・・」

重しが無くなり、身体の自由が戻ってきた瞬間、カガリの内に沈んだ意識が覚醒した。

「嫌だあっ!!」

「あっ・・・」

アスランを押しのけ、彼がひるんだ隙に、その下から抜け出す。
たくし上げられたTシャツをもとに戻しながらソファの近くに置いていたバッグを掴み、身体を起こした。

「カガリっ・・・」

後方から聞こえるアスランの声を振り切り、もつれそうな足を必死に動かして、リビングを出ると、廊下を駆け抜けた。
ほとんど転がり出るような形で、アスランのマンションから外に出て、靴もちゃんと履けぬまま、それでもカガリは走り続けた。


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